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投資詐欺に遭ったらお金は取り戻せる?返金手段と回収の見込みを解説
投資詐欺に遭ったあなたへ、まずお伝えしたいこと
「まさか自分が…」
投資名目で大切なお金をだまし取られ、今、このページをご覧になっているあなたは、強い不安と後悔、そして「どうして信じてしまったんだ」というご自身を責める気持ちでいっぱいかもしれません。
しかし、まず最初にお伝えしたいことがあります。悪いのは100%、あなたを騙した詐欺師です。決してご自身を責めないでください。近年の投資詐欺の手口は非常に巧妙化しており、誰でも被害に遭う可能性があります。
今、最も大切なことは、パニックになって闇雲に行動しないことです。焦りから「なんとか取り返したい」と怪しげな情報に飛びつけば、「お金を取り戻してあげる」と近づいてくる別の詐欺師による二次被害に遭う危険性すらあります。
この記事では、投資詐欺の被害回復に向けた法的な対応方法について、福岡市で多くの刑事事件の弁護に携わってきた福岡フォワード法律事務所の代表弁護士秀﨑が丁寧に解説します。
あなたのお金は取り戻せる?回収可能性を判断する4つのチェックポイント
被害金の回収可能性は、残念ながら「100%取り戻せる」と断言できるものではありません。しかし、諦めるのはまだ早いです。以下の4つのポイントをチェックすることで、ご自身の状況を客観的に把握し、回収の見込みをある程度判断することができます。
- 相手の情報はどれくらいあるか?
詐欺師の氏名、住所、電話番号、法人の場合は会社名や所在地などが分かっているほど、回収の可能性は高まります。SNSのアカウント名や偽名しか分からない場合でも、他の情報と組み合わせることで特定に至るケースもあります。 - 証拠は残っているか?
相手とのやり取り(LINE、メールなど)、送金を指示されたウェブサイトのスクリーンショット、契約書、パンフレット、振込明細書など、客観的な証拠が多ければ多いほど、法的手続きを有利に進めることができます。 - お金を支払った方法は何か?
銀行振込の場合、相手の口座情報が手がかりになります。クレジットカード決済の場合は、カード会社を通じて調査を進められる可能性があります。一方、暗号資産(仮想通貨)での送金は、相手の特定が極めて困難になるため、回収のハードルが非常に高くなるのが現実です。 - 被害に気づいてからどれくらい時間が経ったか?
時間が経つほど、相手が資金を移動させたり、証拠を消去したりする可能性が高まります。また、返金を求める権利には「時効」も存在します。被害に気づいたら、一日でも早く行動を起こすことが重要です。状況によっては、クーリングオフといった制度を利用できる可能性もゼロではありません。
被害回復に向けた具体的な返金手段と流れ
投資詐欺の被害回復では、早期の対応が重要です。ここでは、実際に返金を求めるための具体的なステップを解説します。刑事責任を追及する「刑事告訴」と、お金の返還を求める「民事上の請求」は目的が異なる手続きですが、ここでは後者の民事上の返金請求を中心に見ていきましょう。これらの債権回収の手段は、状況に応じて組み合わせて進めることになります。
STEP1:被害拡大を防ぐ初動対応【最優先】
被害回復の成否は、初動対応で決まるといっても過言ではありません。
絶対にこれ以上の送金はしない
「税金がかかる」「出金手数料が必要」など、もっともらしい理由で追加の支払いを要求されても、絶対に応じてはいけません。それは被害額をさらに拡大させるための嘘です。
証拠を保全する
相手とのやり取りのスクリーンショット、振込明細、相手のプロフィール画面、広告が表示されたページなど、少しでも関連するものはすべて保存してください。相手がアカウントを削除する前に、できるだけ多くの情報を確保することが重要です。
金融機関と警察へ連絡する
銀行振込で送金してしまった場合、すぐに振込先の金融機関に連絡し、詐欺被害に遭ったことを伝えて口座の凍結を依頼してください。これは「振り込め詐欺救済法」に基づく被害回復分配金の手続につながる可能性があり、金融機関が犯罪利用預金口座等と認めた場合には、口座残高を原資として被害額の全部または一部が分配されることがあります。
同時に、最寄りの警察署にも被害を相談しましょう。被害届が受理された場合は、受理番号を確認し、必要に応じて被害届出受理証明書などの発行可否を警察署に確認してください。金融機関での手続きに必要な資料は、金融機関ごとに確認する必要があります。ただし、警察の目的はあくまで犯人の検挙であり、直接お金を取り戻してくれるわけではない点は理解しておく必要があります。
より詳しい初動対応については、「SNS型投資詐欺の初動対応」で解説しています。
【参考情報】
STEP2:相手方との交渉による返金請求
相手の連絡先が分かり、話し合いに応じる可能性がある場合には、弁護士が代理人として内容証明郵便を送付し、返金を求める交渉を行うことがあります。法的な請求であることを示すことで、相手にプレッシャーをかけ、訴訟前の解決を目指します。
しかし、相手が組織的な詐欺グループである場合、交渉には応じず、無視されたり連絡が途絶えたりすることがほとんどです。加害者が示談に応じないケースも少なくありません。
STEP3:裁判(民事訴訟)で返金を求める
交渉が不可能な場合や決裂した場合は、裁判所に訴訟を提起し、法的に返金を求めていきます。これが民事訴訟です。
訴訟で勝訴判決を得られれば、それは「あなたには相手方からお金を返してもらう権利がある」ということを国が法的に認めたことになります。この判決は、後に説明する「強制執行」を行うための債務名義となります。
ただし、ここで非常に重要な点があります。それは、「勝訴判決=お金が自動的に返ってくる」ではないということです。判決はあくまで権利を確定させるものであり、実際に相手の財産からお金を回収するには、次の「強制執行」というステップが必要になります。近年の民事訴訟のデジタル化により手続きの一部は簡素化されていますが、本質的な流れは変わりません。

相手の財産を凍結する「仮差押え」とは?費用と効果を徹底解説
訴訟には時間がかかります。その間に詐欺師が銀行口座から預金を引き出したり、不動産を売却したりして財産を隠してしまえば、たとえ勝訴判決を得ても回収できる財産がなくなり、実際の回収につながらないおそれがあります。
そうした事態を防ぐための強力な手段が「仮差押え」です。これは、訴訟を起こす前に、裁判所の命令で相手の財産(預金口座や不動産など)を一時的に凍結し、勝手に処分できないようにする手続きです。
仮差押えのメリットは、相手の財産を保全し、将来の債権回収の可能性を高められる点にあります。しかし、デメリットとして費用面でのハードルがあります。
仮差押えの費用は、主に以下の3つで構成されます。
- 申立て費用:裁判所に納める印紙代や郵便切手代など、数千円程度です。
- 弁護士費用:着手金として20万円~40万円程度が相場となることが多いです。
- 担保金(供託金):これが最も高額になる可能性があります。仮差押えは相手に大きな影響を与えるため、万が一、申立てが不当だった場合に相手が被る損害を賠償するための保証金です。請求額の10%~30%程度を法務局に預ける(供託する)必要があります。
「担保金が高すぎる」と感じるかもしれませんが、このお金は本案訴訟で勝訴し、担保取消し等の手続が認められれば、取り戻せる場合があります。あくまで一時的に預けるお金であり、支払って終わりではないという点を理解しておくことが重要です。
仮差押えは、相手の財産がどこにあるか(例えば、銀行名と支店名)を特定できている場合に非常に有効な手段となります。
【参考情報】
「もう手遅れかも…」諦める前に知るべき時効の話
被害に遭ってから時間が経ってしまい、「もう請求できないのでは…」と不安に思っている方もいるかもしれません。確かにお金の返金を求める権利(法律上は「損害賠償請求権」といいます)には「時効」があり、一定期間が経過すると権利が消滅してしまいます。
原則として、時効期間は以下の通りです。
- 被害の事実と加害者を知った時から3年
- 詐欺行為(不法行為)があった時から20年
しかし、「期間が過ぎそうだから」と諦めるのは早計です。時効の進行を一時的に止めたり(完成猶予)、リセットしたり(更新)する方法があるからです。
例えば、以下のようなアクションを起こすことで、時効の完成を防げる可能性があります。
- 内容証明郵便で返金を請求する(催告):時効の完成が6か月間猶予されます。
- 訴訟を提起する:裁判手続き中は時効の完成が猶予され、判決が確定すれば時効はリセット(更新)されます。
- 仮差押えを申し立てる:手続き中は時効の完成が猶予されます。
時間が経過していても、法的手続きを取ることで請求を継続できる場合があります。まずは、ご自身の状況で時効がどうなるのか、専門家に相談してみることが大切です。より詳しい内容は、「消滅時効に注意」の記事でも解説しています。
【参考情報】
弁護士への相談|費用倒れを防ぎ、賢く依頼するための視点
「弁護士に頼むとお金がかかりそう…」これは、多くの方が抱く当然の懸念だと思います。ここでは、弁護士費用と費用対効果について、誠実にお話しします。
弁護士費用は、一般的に以下の内訳で構成されます。
- 相談料:法律相談にかかる費用。相談方法や相談分野によって、無料・有料の取扱いが異なります。
- 着手金:依頼時に支払う費用。結果にかかわらず返金されないのが一般的です。
- 成功報酬:実際に回収できた金額に応じて支払う費用。「回収額の〇%」という形で設定されます。
- 実費:印紙代、郵便切手代、交通費など、手続きにかかる実費です。
依頼を検討する際は、「回収できる見込みの金額」と「弁護士費用や裁判費用などの総額」を比較し、費用対効果を確認することが不可欠です。回収額より費用の方が高くなってしまう「費用倒れ」のリスクは、常に考えなければなりません。
私が投資詐欺の相談を受ける際、特に強く感じるのは、相談を受けるまでの時間がその後の回収可能性に影響することがあるという点です。
実際の相談では、「最初は本当に投資だと思っていた」「出金できないと言われたものの、システム上の問題だと思っていた」「もう少し待てば返金されると言われていた」などの理由から、詐欺だと気付くまでに時間がかかっているケースがあります。
しかし、投資詐欺では、出金を求めた途端に「税金が必要」「保証金が必要」「口座の解除費用が必要」などとして、さらに送金を要求されることがあります。この段階で追加送金を続けてしまうと、被害額が拡大するだけでなく、既に送金したお金についても回収が難しくなる可能性があります。
そのため、私は相談を受けた際、「本当に詐欺なのか」を何日も考え続けるよりも、出金できない、担当者と連絡が取れない、追加送金を要求されたといった異変が生じた時点で、一度専門家に相談することをおすすめしています。
また、投資詐欺では、「相手を訴えればお金が戻ってくる」と考えてしまいがちですが、裁判に勝つことと、実際にお金を回収することは別問題です。
相手方を特定できるのか、相手方に財産があるのか、その財産を保全できるのか、どのような手段で回収するのかを検討したうえで、弁護士費用を含めて手続を進める意味があるのかを判断する必要があります。
私自身、投資詐欺の相談では、「請求できるか」だけではなく、「請求した場合に実際に回収できる可能性があるのか」という視点を重視しています。相談者にとって重要なのは、裁判に勝つという結果だけではなく、最終的に被害金をどこまで現実に取り戻せるかだからです。
安易に「絶対に取り戻せる」といった甘い言葉を使う業者には注意が必要です。誠実な専門家であれば、必ずリスクについても説明してくれます。まずは相談の場で、ご自身の状況を正直に話し、費用対効果を含めた現実的な見通しを確認することが、失敗しない弁護士選びの第一歩と言えるでしょう。
まとめ|一人で抱え込まず、まずは専門家にご相談ください
時間が経過すると、相手方が資金を移動させたり、連絡手段を閉ざしたりして、回収が難しくなる可能性があります。

この記事でお伝えしたように、被害回復のためには、
- 迅速な初動対応と証拠保全
- 状況に応じた法的手続き(口座凍結、交渉、仮差押え、訴訟など)の選択
- 費用対効果を踏まえた冷静な判断
が不可欠です。これらをたった一人で、しかも精神的に追い詰められた状況で判断し、実行するのは非常に困難です。
一人で抱え込んでいると、視野が狭くなり、冷静な判断ができなくなってしまいます。まずは専門家である弁護士に相談し、ご自身の状況を客観的に整理することから始めてみませんか。それが、被害回復に向けて状況を整理し、次の対応を検討するための第一歩になります。
福岡フォワード法律事務所では、投資詐欺被害の状況を確認し、回収可能性や費用対効果を踏まえて対応方針を検討します。当事務所の対応方針もあわせてご確認ください。
SNS型投資詐欺に遭ったら?送金直後に行う口座凍結と返金請求を弁護士が解説
SNS型投資詐欺に遭ったあなたへ、まずお伝えしたいこと
「もしかして、これは詐欺かもしれない…」
SNSの広告や、著名人をかたる人物からの誘いで始めた投資。最初は順調に利益が出ていたのに、いざ出金しようとすると応じてもらえない。あるいは、突然相手と連絡が取れなくなった…。今、この記事を読んでいるあなたは、そんな強い不安や焦りを感じているかもしれません。
私が投資詐欺の被害相談を受ける中で、特に強く感じるのは、「詐欺だと気付いた時点では、すでに相手との連絡が取れなくなっている」というケースが少なくないことです。
しかし、実際には、相手との連絡が続いている段階や、送金した直後であれば、金融機関への連絡、警察への相談、送金先口座の確認など、まだ取ることのできる対応があります。
「本当に詐欺なのか確信が持てない」「もう少し様子を見たい」と考えてしまうお気持ちは痛いほど理解できます。ですが、ことSNS型投資詐欺については、確信を持つまで待つことが必ずしも被害回復につながるわけではありません。
私は、投資詐欺の相談を受けた際には、返金の可能性を検討するより先に、まず「最後に送金したのはいつか」「どこへ送金したのか」「現在、相手と連絡が取れるのか」を確認するようにしています。
被害発覚直後は、返金方法を考えるより先に、被害をこれ以上拡大させないことと、残っている資金を少しでも保全するための対応を急ぐことが何よりも重要だからです。
どうか、一人で抱え込まないでください。この記事では、被害に遭った直後にあなたが取るべき具体的な行動を、福岡市で多くの刑事事件の弁護に携わってきた福岡フォワード法律事務所の代表弁護士秀﨑が丁寧に解説します。順を追って解説していきます。
送金直後に取るべき3つの初動対応
詐欺の可能性に気づいたら、まずは落ち着いて初動対応を進めることが重要です。犯人が資金を移動・出金する前であれば、口座凍結などの対応を取れる可能性があります。以下の3つの行動を速やかに検討してください。

ステップ1:これ以上の送金を絶対に止める
詐欺師は、あなたがお金を取り戻したいという心理につけ込み、さらなる送金を要求してきます。その手口は巧妙です。
- 「出金するためには、手数料として〇〇万円が必要です」
- 「利益が出ているので、税金の支払いが先に必要です」
- 「システムエラーを解除するための保証金を振り込んでください」
これらはすべて、真っ赤な嘘です。一度でも応じてしまうと、そのお金についても回収が難しくなる可能性があります。犯人からの甘い言葉や脅しに惑わされず、これ以上の送金は絶対にしないでください。これは、被害の拡大を防ぐための最も重要で、最初の一歩です。
もし、不当な請求にどう対応していいか分からなくなってしまったら、すぐに連絡を絶ち、次のステップに進みましょう。
ステップ2:金融機関と警察に連絡し、口座凍結を要請する
次に、送金してしまったお金を守るため、関係各所に連絡し、犯人の口座を凍結する手続きを取ります。連絡すべきは以下の3か所です。
- 振込先の金融機関(相手の銀行)
- ご自身が利用した金融機関(あなたの銀行)
- 警察相談専用電話「#9110」
まず、最も重要なのは振込先の金融機関への連絡です。振込明細書を手元に用意し、「SNSの投資詐欺に遭ったので、振り込め詐欺救済法にもとづいて口座の凍結をお願いします」と明確に伝えてください。銀行によっては、24時間対応の窓口を設けている場合もあります。一刻も早く電話しましょう。
次に、ご自身が利用した銀行にも同様の連絡を入れます。事情を説明し、何か対応できることがないか相談してください。
そして、警察相談専用電話「#9110」または最寄りの警察署にも速やかに相談し、必要に応じて被害届の提出について確認してください。警察に相談し、事件として扱ってもらうことで、金融機関が口座凍結の手続きをスムーズに進めやすくなるという側面もあります。相談した警察署名と担当者名を控えておき、金融機関から尋ねられた際に伝えられるようにしておきましょう。
ステップ3:すべてのやり取りを証拠として保存する
今後の返金請求や警察の捜査において、証拠は重要な資料となります。犯人にブロックされて情報が消えてしまう前に、気づいた時点ですぐに以下の情報を保存してください。
- 相手とのやり取りの全記録
SNSのダイレクトメッセージ、LINEやその他のチャットアプリのトーク履歴など、最初から最後までのすべてのやり取りをスクリーンショットで保存します。特に、相手から送金を指示された箇所は重要です。 - 相手のアカウント情報
アカウント名、ID、プロフィールページのURL、アイコン画像など、相手を特定できる情報はすべてスクリーンショットに残しておきましょう。 - 送金の記録
銀行の振込明細やインターネットバンキングの取引履歴、暗号資産を送金した場合は取引ID(TxID)がわかる画面などを保存します。 - 詐欺サイトや広告
きっかけとなったSNS広告、誘導された投資プラットフォームのサイト画面、グループ名なども、URLと共にスクリーンショットで記録してください。
これらの証拠は、多ければ多いほど有利になります。少しでも関係があるかもしれないと思ったら、ためらわずに保存する癖をつけましょう。
被害金を取り戻すための2つの法的ルートと現実的な限界
初動対応を終えた後、次はいよいよ被害金を具体的に取り戻すための手続きを検討します。しかし、ここからは専門的な知識が必要となり、また、残念ながら必ず全額が戻ってくるわけではない、という厳しい現実も直視しなければなりません。特に、銀行振込と暗号資産での送金では、その後の展開が大きく異なります。このテーマの全体像については、債権回収で体系的に解説しています。

ルート1:口座凍結と「被害回復分配金」による返金
ステップ2で要請した口座凍結が成功し、その口座にお金が残っていた場合、「振り込め詐欺救済法」という法律にもとづいて、被害者に資金が分配される可能性があります。
大まかな流れは以下の通りです。
- 金融機関が口座を凍結する。
- 預金保険機構がホームページで、被害回復分配金の申請手続きが始まったことを知らせる公告を行う。
- 被害者は、公告期間内に金融機関に対して申請手続きを行う。
- 口座に残っていた残高から、被害額に応じてお金が分配される。
この制度の最大のメリットは、詐欺の犯人が誰か特定できなくても、振込先口座に一定の残高があり、所定の申請手続きを行えば返金を受けられる可能性がある点です。だからこそ、犯人がお金を引き出す前の迅速な口座凍結が非常に重要になるのです。
ただし、デメリットもあります。口座の残高がゼロ、あるいはごくわずかしか残っていなければ、返金は期待できません。また、他にも多くの被害者がいる場合は、残高を被害額に応じて按分(あんぶん)するため、被害額の一部しか戻ってこないケースがほとんどです。被害回復分配金の支払を受けるまでには、少なくとも半年以上かかるのが一般的です。
参照:預金保険機構の公告ページ
ルート2:犯人側への損害賠償請求による返金
被害回復分配金だけでは被害額に満たない場合や、口座に残高がなかった場合には、詐欺の犯人や関係者に対して、民事上の損害賠償請求を行うという方法があります。
請求の相手方として考えられるのは、詐欺の実行犯はもちろんですが、振込先の口座を提供した名義人も含まれます。自分の口座が犯罪に使われることを安易に許したとして、共同不法行為者としての責任を追及できる可能性があるからです。安易な口座売買は、それ自体が犯罪なのです。
弁護士に依頼すれば、「弁護士会照会」という制度を使い、金融機関に対して口座名義人の氏名や住所といった情報を開示するよう求めることができます。これにより、請求相手を特定できる可能性があり、判明した情報をもとに、内容証明郵便の送付や訴訟(裁判)といった法的手続きを検討していくことになります。
ただし、この方法にも限界があります。相手を特定できたとしても、その人物に支払い能力(資力)がなければ、たとえ裁判で勝訴したとしても、現実にお金を回収することは困難です。
【要注意】暗号資産での送金は返金が極めて困難な理由
近年、SNS型投資詐欺では、銀行振込ではなく暗号資産(仮想通貨)での送金を指示されるケースが急増しています。もし、あなたが暗号資産で送金してしまった場合、残念ながら被害金の回収は極めて困難と言わざるを得ません。その理由は、主に以下の3つです。
- 相手の特定が不可能に近い(匿名性)
暗号資産の送金先は、英数字の羅列である「ウォレットアドレス」として表示されます。銀行口座のように画面上で名義人を確認できるとは限らず、送金先が海外取引所や個人ウォレットを経由する場合、持ち主の特定は難しくなることがあります。 - 国境を越えて資金が移動してしまう(追跡困難)
送金された暗号資産が海外の取引所や個人のウォレットに移転されると、日本国内だけの手続きでは追跡や保全が難しくなる場合があります。 - 法的な強制執行が及ばない(制度の未整備)
仮に相手を特定できたとしても、暗号資産がすでに移転されている場合や、秘密鍵・保管先を把握できない場合には、差押えや換価の実効性に限界があります。そのため、強制的な回収は難しいケースがあります。
ブロックチェーン技術によって取引の履歴自体は追跡できますが、「誰が」その取引を行ったのかが分からない以上、返金を求める相手が誰なのかを突き止めることができないのです。この点が、暗号資産による被害回復を難しくする大きな要因です。
弁護士への相談を考える|費用と依頼するメリット
「自分一人で手続きを進めるのは不安だ」「少しでもお金を取り戻す可能性を上げたい」と感じたら、弁護士への相談を検討するタイミングです。
弁護士に依頼することで、以下のようなサポートが期待できます。
- 金融機関への口座凍結要請のサポート
- 警察への被害届提出の同行・助言
- 弁護士会照会による口座名義人の調査
- 内容証明郵便の作成・送付による返金交渉
- 訴訟(裁判)手続きの代理
複雑で精神的な負担も大きい手続きを、専門家として代行・サポートしてくれるのが最大のメリットです。しかし、弁護士に依頼しても、すべての事案で回収できるわけではありません。前述の通り、暗号資産のケースや、相手口座に残高がない場合など、ご依頼いただいても回収が難しい事案も正直に存在します。また、弁護士費用を考えると、被害額によっては「費用倒れ」になってしまうリスクも考慮しなければなりません。
だからこそ、まずは一度、法律相談を利用してみてください。その際には、ステップ3で保存した証拠を一式持参すると、相談がスムーズに進みます。あなたの状況で、どのような手段が考えられるのか、回収の現実的な見込みはどのくらいか、費用はいくらかかるのか、弁護士が客観的な視点からアドバイスします。その上で、正式に依頼するかどうかを決めればよいのです。
焦る心につけ込む「二次被害」に遭わないために
被害に遭い、「何とかしてお金を取り戻したい」と必死に情報を探しているあなたの元に、「被害金を必ず取り戻せる」といった甘い言葉で近づいてくる業者も存在します。このような勧誘は、二次被害につながるおそれがあります。

被害相談を受ける中で、もう一つ注意していただきたいと感じるのが、「被害金を取り戻します」という業者からの勧誘です。
一度詐欺被害に遭った方は、「何とかお金を取り戻したい」という気持ちが強くなっています。その心理につけ込み、「特殊なルートがある」「海外の捜査機関と連携している」「必ず取り戻せる」などと説明し、さらに着手金や調査費用などを要求する業者には注意が必要です。
もちろん、正当な弁護士業務や調査サービスまで否定するものではありません。しかし、「必ず返金できる」「100%回収できる」など、結果を過度に断定する説明を受けた場合には、契約を急がず、慎重に確認することをお勧めします。
法律上、相手方と金銭の返還交渉を行ったり、法的な手続きを代理したりできるのは、弁護士(や一部の司法書士)に限られています(弁護士法72条)。
投資詐欺の被害者は、すでに一度、相手の言葉を信じて財産を失っています。だからこそ、被害回復を求める場面で、もう一度同じことが起きないようにする必要があります。
被害回復を急ぐ気持ちは当然ですが、「誰に依頼するのか」「何を根拠に回収できると言っているのか」「追加でいくら費用がかかるのか」を確認したうえで判断することが大切です。
まとめ|一人で抱え込まず、まずは専門家にご相談ください
SNS型投資詐欺に遭ってしまったら、パニックになるのは当然です。しかし、まずは落ち着いて、この記事でお伝えした初動対応を実践してください。
- 【止める】これ以上の送金を絶対に止める
- 【連絡する】金融機関と警察に連絡し、口座凍結を要請する
- 【保存する】すべてのやり取りを証拠として保存する
この初期行動が、1円でも多くのお金を取り戻すための鍵を握っています。
その後の法的な手続きは、複雑で専門的な知識が必要です。ご自身の状況でどのような選択肢があるのかを知るためにも、一人で悩み続けるのではなく、ぜひ一度、私たち専門家にご相談ください。
当事務所は、「ご依頼者様が人生の困難を乗り越え、前に進もうとすることを最大限サポートしたい」という想いで設立しました。被害状況や証拠関係を確認し、取り得る対応を一緒に検討します。
まずはお気軽にお問い合わせください。
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口座売買で口座が作れない?凍結後の生活への影響と新規開設の対処法
口座売買が発覚…「もう口座は作れない」と絶望する前に知ってほしいこと
「軽い気持ちで口座を売ってしまった…」「まさかこんなことになるなんて…」
ある日突然、自分の銀行口座が凍結され、お金が引き出せなくなっている。ATMで取引できない、銀行から口座利用停止の通知が届いたなどの状況では、給与や家賃、公共料金の支払いに支障が出るのではないかと不安になる方もいるでしょう。
でも、どうか一人で抱え込まないでください。あなたが今感じている不安や焦りは、決してあなた一人だけのものではありません。この記事は、パニック状態から抜け出し、冷静に次の一歩を考えるためのガイドです。難しい法律の話を一方的にするのではなく、まずはあなたの生活をどう守るか、そして未来に向けてどう行動すべきかを、福岡市で多くの刑事事件の弁護に携わってきた福岡フォワード法律事務所の代表弁護士秀﨑が丁寧に解説します。
状況に応じて検討できる対応はあります。まずは、現在の状況を整理しながら確認していきましょう。
なぜ口座が凍結され、新規開設が難しくなるのか?その仕組みを解説
口座が凍結され、新しい口座の開設も断られてしまう背景には、ちゃんとした理由があります。それは、あなたを困らせるためではなく、金融システム全体を犯罪から守るための仕組みなのです。
まず、あなたの口座が凍結されたのは、特殊詐欺などの犯罪に利用された疑いがあるためです。犯罪利用が疑われる口座については、警察庁が金融機関への凍結検討依頼や金融団体等への凍結口座リストの提供を行う運用があります。また、2027年4月1日から、犯罪収益移転防止法施行規則の改正により、預貯金取扱事業者間で不正利用口座に関する情報を共有する枠組みが施行・適用される予定です。

つまり、ある金融機関で犯罪利用が疑われた情報が、別の金融機関の審査で考慮されることがあります。もっとも、新規口座開設を認めるかどうかは最終的には各金融機関の個別判断であり、リスト掲載だけで必ず開設を断られると決まっているわけではありません。
これは、あなた個人を罰するためというより、社会全体を金融犯罪から守るためのシステムが作動している結果だと理解することが、冷静に対応するための第一歩です。
金融庁も、どのような取引が疑わしいかの参考事例を公開し、金融機関に注意を促しています。
【弁護士の見解】「絶対に作れない」は本当か?新規口座開設の可能性
「一つの銀行で口座を凍結されたので、もうどこの銀行でも口座を作れないのでしょうか」
ご相談に来られる方の多くが、このように考え、パニックに陥っています。ネット上にも「一度凍結されたら二度と口座は作れない」といった情報が溢れており、将来を悲観してしまうのも無理はありません。
しかし、私たち弁護士としては、「凍結されたから、今後一切どの金融機関でも口座を開設できない」と一律に断言することはできません。一方で、「別の銀行なら必ず作れる」とも言えないのが実情です。
口座を新たに開設できるかどうかは、最終的に各金融機関の個別の判断に委ねられています。その判断には、以下のような様々な要素が影響します。
- 情報の共有レベルと各金融機関の審査基準
- 口座売買に関与した後の時間の経過
- 刑事手続きの結果(例えば、不起訴処分になったなど)
特に、捜査の結果、あなたが犯罪に主体的に関わったわけではないと判断され、不起訴処分となった場合、その事実を金融機関に説明することで、状況が変わる可能性はあります。不起訴になったからといって必ず口座が作れるわけではありませんが、考慮材料の一つにはなり得ます。前科がつく事態を避けられれば、社会生活への影響を最小限に抑えることにも繋がります。
また、金融庁は2026年6月に金融機関間で不正利用口座に関する情報共有の枠組みを改正し、2027年4月1日から施行・適用される予定です。このようにルールは常に更新されており、状況が今後も一切変わらないと決まっているわけではありません。
ですから、「永久に銀行口座を持てない」と絶望するのではなく、将来の選択肢を狭めないためにも、現時点で必要な対応を一つずつ進めることが重要です。
口座が使えない!今日から始めるべき生活防衛マニュアル
口座が使えない今、最も切実なのは「日々の生活をどう維持していくか」という問題でしょう。パニックにならず、一つひとつ着実に対応していくことが大切です。ここでは、今日からすぐに取り組むべき具体的な行動計画をご紹介します。
給与の受け取りはどうする?会社への伝え方と代替案
まず最優先で確保すべきは、給与の受け取りです。以下の手順で、速やかに会社に相談しましょう。
- 経理担当者に給与振込先の変更を依頼する
会社に口座売買の経緯まで説明する必要があるとは限りませんが、給与の受取方法を変更したいこと、新しい振込先口座の有無、現金払いを希望する事情などは正確に伝えましょう。 - 代替案として「現金手渡し」を相談する
新しい口座の開設に時間がかかる場合や、次の給料日までに振込先変更が間に合わない可能性もあります。その場合は、一時的な措置として給料を現金で手渡ししてもらえないか、会社に相談してみてください。法的には現金手渡しは認められていますので、事情を説明すれば応じてもらえる可能性があります。
大切なのは、給料日直前になって慌てるのではなく、できるだけ早く相談することです。

公共料金・家賃・携帯代…引き落とし不能を防ぐ手続き
給与の次に重要なのが、家賃や公共料金などの固定費の支払いです。引き落としができない状態が続くと、ライフラインの利用停止や契約上の延滞につながるおそれがあります。また、クレジットカード払いの延滞や携帯端末の分割払いが含まれる場合には、信用情報に影響することがあります。
電気、ガス、水道、家賃の管理会社、携帯電話会社など、口座振替を利用している全ての契約先に連絡し、支払い方法の変更手続きを行いましょう。
- コンビニ払込票での支払いに変更する
- クレジットカード払いに変更する(利用可能なカードがある場合)
多くのサービスでは、ウェブサイトの会員ページやコールセンターへの電話で手続きが可能です。「引き落とし口座が凍結された」と伝える必要はなく、「支払い方法を変更したい」と伝えれば問題ありません。延滞が発生する前に、迅速に行動することが重要です。もしクレジットカードも持っていない場合は、当面はコンビニ払込票での対応となるでしょう。
弁護士だからできること:口座凍結の解除交渉と今後の生活再建
口座が凍結された場合でも、事情を整理し、関係者と調整することで、対応の選択肢を検討できる場合があります。
私は過去に、口座凍結を要請した相手方(被害者側の弁護士など)と交渉し、示談を締結することで、その条件として銀行に凍結要請を取り下げてもらった経験があります。凍結要請の取下げ書が提出されたからといって、銀行が必ず凍結を解除する保証はありません。最終的な判断はあくまで銀行が行います。
しかし、「示談が成立したので凍結の必要がなくなった」「調査の結果、本人は詐欺の意図はなかった」といった事情を、凍結を要請した側から銀行に説明してもらうことで、凍結解除を検討してもらうための事情として扱われる可能性があります。ご自身で対応するよりも、専門家である弁護士が間に入ることで、こうした交渉をスムーズに進めることが可能になるのです。

これまで口座売買に関するご相談を受けてきて感じるのは、多くの方が「口座凍結」という事実そのものに動揺し、その後の刑事手続きや生活再建について冷静に考えられなくなっているということです。
しかし、金融機関による口座の利用停止と、警察による刑事事件の捜査は、分けて考える必要があります。刑事事件で不起訴になったからといって、自動的に口座の凍結が解除されるわけではありません。逆に、口座が凍結されたからといって、将来にわたって絶対に口座が開設できないと決まったわけでもないのです。
大切なのは、まずご自身の状況を正確に把握し、給与振込や家賃支払いなど、生活への影響を一つずつ整理すること。その上で、刑事処分の見通しだけでなく、「今後どうやって生活を立て直していくか」という長期的な視点を持って、私たち弁護士と一緒に対応策を考えていくことです。
口座凍結・生活への影響について弁護士に相談する
状況を悪化させるおそれがある行動
焦りや絶望から、状況をさらに悪化させてしまう行動に走ってしまう方がいます。以下の行動は、新たな犯罪に繋がりかねないだけでなく、あなたの社会的信用をさらに失墜させる危険な行為です。絶対に避けてください。
- 安易に別の口座を売買・譲渡する
目先の生活費に困っていても、再び口座売買に関与すると、刑事責任や金融機関との関係がさらに深刻化するおそれがあります。生活が苦しい場合は、ヤミ金などに頼るのではなく、公的な支援制度や弁護士に相談してください。 - 家族や友人の口座を借りる
「ちょっとの間だけだから」と家族や友人の口座を借りる行為も、他人名義の口座を利用する点で口座売買と本質は変わりません。あなただけでなく、大切な家族や友人を犯罪に巻き込んでしまうことになり、人間関係を破壊する原因にもなります。 - 金融機関や警察に虚偽の説明をする
口座凍結の理由を尋ねられた際や、警察の取り調べに対し、嘘をついてその場を乗り切ろうとすることは非常に危険です。矛盾が生じれば信用を失い、かえって事態を悪化させるだけです。事実は誠実に話し、どう対応すべきかは弁護士に相談しましょう。
まとめ:一人で抱え込まず、まずは専門家にご相談ください
口座売買によって口座が凍結されてしまった今、あなたがやるべきことを改めて整理します。
- パニックにならず、この記事を参考に冷静に状況を把握する。
- 給与の受け取りや各種支払先の変更など、当面の生活を守る手続きを迅速に行う。
- 安易な行動は絶対に避け、一人で解決しようとしない。
口座凍結後の対応は、生活面と刑事手続の双方を整理する必要があり、一人で判断することが難しい場合があります。刑事事件の見通しはもちろん、凍結解除の可能性や、今後の生活再建に向けた具体的なアドバイスまで、専門家である弁護士だからこそできるサポートがあります。
当事務所では、口座凍結や刑事手続、生活再建に関する事情を整理し、状況に応じた対応を検討しています。まずは、あなたの状況を私たちにお聞かせいただくことから始めてみませんか。ご相談いただくことで、費用が気になる方もいらっしゃるかもしれませんが、まずは弁護士費用についてもお気軽にお尋ねください。
口座凍結や今後の生活への影響でお困りの場合は、早めにご相談ください。
口座を売ってしまったら自首すべき?出頭前に確認することを弁護士が解説
口座を売ってしまったあなたへ、まずお伝えしたいこと
「軽い気持ちで口座を売ってしまったけれど、後から考えるとすごく怖いことだと気づいた」「いつ警察から連絡が来るんだろう…」「もし逮捕されたら、家族や会社にどう説明すれば…」今、この記事を読んでいる方の中には、不安や後悔を感じている方もいるかもしれません。
報酬を受け取る目的だった、断り切れなかったなど、事情はさまざまだと思います。しかし、事の重大さに気づき、どうにかしたいと考えているその気持ちは、決して間違いではありません。
口座売買について、福岡で多くの刑事事件の弁護に携わってきた福岡フォワード法律事務所の代表弁護士秀﨑が丁寧に解説します。
今後の対応によって、捜査や処分に影響する事情を整理できる可能性があります。まずはこの記事を読んで、落ち着いてご自身の状況を整理することから始めましょう。口座売買のリスクや対処法については、口座売買で問われる罪や警察対応の全体像で全体像を解説していますので、そちらも併せてご覧ください。
口座売買で問われる罪|「売っただけ」では済まない理由
「自分はただ口座を売った(譲渡した)だけ。詐欺などの犯罪に直接関わったわけではない」そう考えている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その認識は非常に危険です。口座の売買は、それ自体が犯罪であり、知らなかったでは済まされない重い責任を問われる可能性があります。
具体的には、主に以下の2つの罪に問われる可能性があります。
- 犯罪収益移転防止法違反: 正当な理由がないのに有償で預貯金通帳、キャッシュカード、暗証番号等を譲り渡し、交付し、または提供することなどは、犯罪による収益の移転防止に関する法律で禁止されています。2026年7月10日以降の行為については、原則として「3年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその両方」が科される可能性があり、業として行った場合は「5年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方」とされています。
- 詐欺罪・詐欺幇助罪: 最初から他人に譲渡する目的で銀行口座を開設した場合、銀行を騙して口座を開設したとして「詐欺罪」が成立することがあります。法定刑は「10年以下の拘禁刑」です。また、自分の口座が振り込め詐欺などの犯罪に使われることを知りながら(または薄々気づきながら)譲渡した場合、犯罪を手助けしたとして「詐欺幇助(ほうじょ)罪」に問われる可能性もあります。最近では、SNS型の投資詐欺なども増えており、その受け皿として口座が使われるケースも後を絶ちません。
このように、「売っただけ」のつもりが、意図せず重大な犯罪に加担してしまうリスクをはらんでいるのです。

弁護士の視点:口座譲渡と詐欺への関与は分けて考える
私が口座譲渡のご相談を受ける際、特に注意しているのが、「口座を譲渡したこと」と「その口座を利用した詐欺にどこまで関与したのか」を分けて考えることです。
実際にご相談に来られた方の中にも、「口座を売ったことは悪いと分かっています。でも、詐欺に使われるとは知りませんでした。自分は詐欺なんてしていません」と強く訴える方がいらっしゃいます。このお気持ちは、もちろん尊重されるべきです。
しかし、捜査はそれだけで終わりません。口座を譲渡する際に相手から「犯罪のお金が入る」「詐欺の振込先として使う」などと説明されていなかったか、不自然な説明を受けていなかったか。譲渡後に入金されたお金を自分で引き出したり、移動させたりしていないか。相手から被害者とのやり取りについて、何らかの指示を受けていなかったか。こうした具体的な事情が、あなたの刑事責任の重さを左右するのです。
以前のご相談でも、ご本人は当初「口座を渡しただけ」と話していましたが、詳しくお話を伺うと、口座を渡した後も相手から複数回連絡を受け、その一部についてご本人が対応していたことが分かりました。
そこで私は、ご本人の記憶だけに頼るのではなく、メッセージの履歴や銀行口座の入出金記録などを時系列に並べ、ご本人がどの時点で何を認識していたのかを客観的に整理しました。
口座を譲渡したという事実だけでなく、その前後に何があったのかによって、問われる罪の重さは大きく変わってきます。だからこそ、「自分は詐欺をしていないから大丈夫」と自己判断したり、「もう逮捕されるしかない」と諦めたりするのではなく、まずは事実関係を整理し、専門家である弁護士に相談していただきたいのです。
警察への出頭・自首の前に!弁護士が確認する3つのこと
不安と焦りから「今すぐ警察に行って全てを話そう」と考えているかもしれません。しかし、その前に一度立ち止まり、冷静に準備をすることが、あなたにとってより良い結果をもたらす可能性があります。やみくもに出頭する前に、必ず確認・準備してほしいことが3つあります。
1. 証拠を削除せず保存する|処分判断に関わる資料の保全
「証拠を消した方が良いのでは?」と考えるのは大きな間違いです。むしろ、あなたにとって有利な証拠を消してしまうことになりかねません。以下の資料は、削除せず、可能な限り保管してください。
- SNSの募集広告のスクリーンショット: 「簡単な副業」「荷物を受け取るだけ」といった、犯罪性を感じさせない文言で募集されていたことを示す重要な証拠です。
- 相手とのDMやLINEのやり取り全文: 「犯罪に使うとは知らなかった」「騙された」というあなたの主張を裏付ける客観的な証拠になり得ます。
- 報酬の振込履歴: 受け取った報酬額が少額であれば、「大きな犯罪に加担している認識はなかった」という主張の補強材料になることがあります。
- 通帳やカードの送付記録: レターパックの控えなど、いつ、どのようにして相手に送ったかを示す記録も残しておきましょう。
これらの証拠は、あなたの認識が「単なる口座の譲渡」であり、悪質な詐欺への積極的な加担ではなかったことを示すために不可欠です。焦ってデータを削除する前に、必ず全て保全してください。
2. 事実関係の整理|いつ、誰に、何を、どのように?
警察の取り調べでは、記憶が曖昧なまま話をしてしまうと、意図せず自分に不利な内容の供述調書が作成されてしまうリスクがあります。警察から事情聴取の呼び出しを受ける前に、ご自身の記憶を整理し、事実関係を時系列で書き出しておくことが非常に重要です。
以下の項目について、思い出せる限り具体的にまとめてみましょう。
- いつ、どのSNSやサイトで募集を見ましたか?
- 相手とはどのような内容のやり取りをしましたか?
- いつ、どの銀行の何を(通帳、カード、暗証番号など)、どうやって送りましたか?
- 報酬はいくらで、いつ、どのようにして受け取りましたか?
この作業は、弁護士に相談する際にも役立ちます。整理された情報があれば、弁護士はより的確な状況判断と弁護方針の立案が可能になります。出頭や相談の前にこの準備をしておくだけで、その後の展開が大きく変わる可能性があるのです。

3. 今後の対応方針の検討|独断での行動は危険
証拠を保全し、事実関係を整理したら、次はいよいよ今後の対応方針を検討する段階です。しかし、この最も重要な判断を一人で行うのは極めて危険です。自首や出頭をすべきか、警察からの連絡を待つべきか。もし被害者がいるなら、弁償はどうするのか。これらの判断には、法的な知識と刑事手続きに関する深い理解が不可欠です。
弁護士の視点:「怖いから、今すぐ警察に行く」は最善とは限らない
これまでご相談を受けてきた中で、「今から警察に行って全部話した方がいいでしょうか」と切羽詰まった様子で尋ねられる方は少なくありません。
もちろん、自分から事実を申告することを検討すべき場面はあります。しかし、私は「自首した方がいいですか」というご質問に対し、事情を詳しくお伺いせずに「すぐ行きましょう」と答えることは決してありません。
まず確認するのは、いつ、誰に、どのような経緯で口座を譲渡したのか、報酬はいくらか、相手から口座の利用目的について何を説明されていたのか、その後口座にどのような入出金があったのか、警察や金融機関から既に連絡は来ているのか、といった詳細な事情です。
その上で、現在の状況で出頭することにどのような意味があるのか、警察に何をどのように説明すべきなのか、被害が発生している場合に弁償をどう考えるのかを総合的に検討します。
特に注意していただきたいのは、焦ってご自身だけで金融機関や捜査機関に「たぶんこういうことだと思います」と推測を交えて説明してしまうことです。後から客観的な資料を確認すると、ご本人の記憶違いだったというケースは少なくありません。私は、まず事実関係を時系列で整理し、確認できている事実とご本人の推測を分けることを大切にしています。
「自首するか、しないか」という二択で考えるのではなく、「現在どの段階にいて、何を確認した上で、どのような対応をするのが最も適切なのか」を、専門家と一緒に考えることが重要なのです。
弁護士に相談するメリット|逮捕や重い処罰を避けるために
「弁護士に相談すると、何が変わるの?」と疑問に思うかもしれません。弁護士は、あなたの代理人として、そして法律の専門家として、逮捕や重い処罰を避けるために多角的なサポートを提供できます。
具体的には、以下のような活動が可能です。
- 自首への同行: 弁護士が同行することで、出頭の経緯や身柄拘束の必要性が低い事情を整理して捜査機関に伝えることができます。
- 取り調べへの対応アドバイス: 黙秘権の適切な使い方や、不利な供述調書にサインしないことの重要性など、取り調べに臨む上での具体的なアドバイスを提供し、あなたを守ります。
- 不起訴処分や執行猶予を目指した弁護活動: 収集した証拠をもとに、検察官や裁判官に対して、あなたに悪意がなかったことや深く反省していることを主張し、可能な限り軽い処分を目指します。
- 被害者との示談交渉: 詐欺などの被害者がいる場合、弁護士が間に入ることで冷静な話し合いが可能になり、示談に向けた交渉を進めやすくなる場合があります。
刑事事件は、初動の対応がその後の結果を大きく左右します。当事務所の解決事例では、事案ごとの事情に応じて身柄解放活動や執行猶予を求める弁護活動を行った例を紹介しています。ただし、処分や判決は、事実関係、証拠、前科前歴、被害弁償の状況などによって異なります。一人で悩まず、まずは専門家の力を頼ってください。
まとめ|口座を売ってしまった場合に確認すべき対応
軽い気持ちで口座を売ってしまったという事実は、残念ながら変えることはできません。しかし、これからの対応によって、今後の手続や処分に影響する事情を整理できる可能性があります。
この記事でお伝えしたように、不安に駆られて一人で行動するのではなく、まずは証拠を保存し、事実関係を整理したうえで、弁護士に相談することが重要です。
福岡フォワード法律事務所では、口座譲渡に関する刑事事件について、事実関係の整理、捜査機関への対応、被害弁償や自首・出頭の検討などをサポートしています。あなたの不安な気持ちをしっかりと受け止め、全力でサポートすることをお約束します。
勇気を出して、まずはお問い合わせください。早めに相談することで、現在の状況に応じた対応方針を検討しやすくなります。
口座売買で逮捕?成立する罪と警察から連絡が来た時の対処法
口座を売ってしまったあなたへ、まずお伝えしたいこと
「軽い気持ちで口座を売ってしまった…」「もしかしたら、いつか警察が家に来るんじゃないか…」「逮捕されたら、人生はどうなってしまうんだろう…」
この記事を読んでいる方の中には、警察から連絡が来るのではないか、逮捕されるのではないかと強い不安を感じている方もいるかもしれません。
どうか、一人で抱え込まないでください。そして、絶望しないでください。確かに、口座の売買は犯罪であり、決して許されることではありません。しかし、冷静に、そして誠実に対応することで、今後の対応次第で、状況の改善を目指せる可能性があります。多くの刑事事件の弁護に携わってきた福岡フォワード法律事務所の代表弁護士秀﨑が丁寧に解説します。
この記事は、単に法律を解説するためだけのものではありません。不安を感じている方に向けて、今後確認すべき事項と具体的な対応を整理するものです。私たち弁護士は、あなたの味方です。
まずは落ち着いて、この記事を最後まで読み進め、今後の対応を検討するための参考にしてください。刑事事件の全体像については、刑事事件のページで体系的に解説しています。
口座売買で問われる2つの罪|「売っただけ」では済まない理由
「自分はただ口座を売った(譲った)だけ。詐欺グループとは関係ない」多くの方が、このように考えてしまいがちです。しかし、その認識は非常に危険です。口座の売買は、それ自体が犯罪であると同時に、他の重大な犯罪に加担したと見なされる可能性があるからです。具体的には、主に以下の2つの罪に問われる可能性があります。

罪状1:犯罪収益移転防止法違反(口座譲渡等の罪)
まず、あなた名義の預金通帳やキャッシュカードを、相手方に不正利用の目的があることを知って譲り渡したり、正当な理由なく有償で譲り渡したりする行為などが、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(通称:犯罪収益移転防止法)という法律で禁止されています。
この法律は、口座が振り込め詐欺やマネー・ローンダリング(資金洗浄)といった犯罪の温床になることを防ぐためのものです。そのため、同法28条の要件を満たす場合、実際にあなたの口座が犯罪に使われたかどうかにかかわらず、譲渡等の時点で犯罪が成立する可能性があります。
法定刑は「1年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又はこれを併科」と定められています。「知らなかった」「軽い気持ちだった」という言い訳は、残念ながら通用しません。
罪状2:詐欺罪またはその幇助犯(ほうじょはん)
譲渡した口座が、実際にオレオレ詐欺や架空請求詐欺などの犯罪に使われてしまった場合、さらに重い罪に問われる可能性があります。
特に、売却する目的を隠して金融機関で新たに口座を開設した場合、それは銀行を騙して口座を作らせたということになり、「詐欺罪」が成立する可能性があります。詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」と、非常に重いものです。
また、自分の口座が何らかの犯罪に使われるかもしれないと薄々気づきながら(法律上「未必の故意」といいます)譲渡した場合、詐欺グループの犯行を手助けした「詐欺幇助(ほうじょ)罪」に問われることもあります。昨今、SNSなどで見られる高額報酬をうたう闇バイトなどは、まさにこの典型例です。
このように、「口座を売った」という一つの行為が、複数の重大な犯罪に繋がりうることを、まずはっきりと認識することが重要です。
警察から連絡が来たら?逮捕までの流れと今すぐすべきこと
もし、あなたの携帯電話に警察から連絡が来たら…その時点から、慎重な対応が必要になります。パニックにならず、冷静に対処するために、刑事手続きの一般的な流れと、各段階で何をすべきかを知っておきましょう。

STEP1:警察からの電話連絡と任意聴取
多くの場合、最初のコンタクトは警察署の捜査員からの電話です。「〇〇警察署の者ですが、お使いの口座の件で少しお話を伺えませんか」といった内容で、警察署への出頭を求められます。
この段階はあくまで「任意」での事情聴取の要請です。しかし、ここで安易な対応をすると、後々取り返しのつかない事態になりかねません。
- すべきこと:まずは落ち着いて、相手の所属(警察署名・部署)、氏名、階級、そして何の件で話を聞きたいのかを正確に確認しましょう。出頭日時については、即答を避け「弁護士と相談してから折り返します」と伝えることも選択肢の一つです。
- してはいけないこと:電話口で曖昧な記憶のまま詳しい話をしたり、嘘をついたりすることは絶対に避けてください。その場の発言が、後であなたにとって不利な証拠(供述調書)として使われる可能性があります。
警察に出頭する前に、必ず一度、弁護士に相談してください。何と答えるべきか、黙秘すべき点はどこか、具体的なアドバイスを受けるだけで、その後の展開が大きく変わります。
STEP2:逮捕・勾留による身柄拘束
任意聴取で話した内容や、警察がすでに掴んでいる証拠から、「証拠を隠滅する恐れ」や「逃亡する恐れ」があると判断されると、ある日突然、逮捕令状を持った警察官がやってきて「逮捕」される可能性があります。ご家族が逮捕された場合も同様ですが、逮捕されると、生活は一変します。
逮捕後、警察は48時間以内に事件を検察官に引き継ぎ(送致)、検察官は24時間以内(合計72時間以内)に、さらに身柄拘束を続ける「勾留」を裁判所に請求するかどうかを判断します。
勾留が決定すると、原則10日間、延長されるとさらに最大10日間(合計で最長20日間)、警察署の留置場で生活することになります。この間、携帯電話は没収され、外部との連絡は厳しく制限されます。家族であっても自由に面会することはできません。
弁護士は、原則として、立会人なくあなたと面会(接見)できます。身柄拘束中、弁護士は外部との連絡や今後の対応を整理する重要な窓口になります。
STEP3:検察への送致と起訴・不起訴の決定
勾留されている間、警察や検察は取調べを進め、最終的にあなたを刑事裁判にかけるかどうか(起訴・不起訴)を検察官が決定します。
日本の刑事裁判では、起訴されると99%以上が有罪になると言われています。つまり、前科を避けるためには、「不起訴処分」を目指すことが重要となります。
弁護士は、検察官に対して、あなたが深く反省していること、口座が悪用された詐欺の被害者へ示談や被害弁償の意思があること、家族が監督を誓っていることなどを客観的な証拠と共に主張します。こうした弁護活動が、検察官が処分を判断する際の重要な事情として考慮される可能性があります。
【弁護士の視点】絶対に消してはいけない証拠とは
警察から連絡が来るかもしれないという不安から、闇バイトの募集主とのSNSのやり取りや、LINEのメッセージなどを消してしまう方がいます。これは、「証拠隠滅」と見なされるだけでなく、あなた自身の認識や経緯を説明するための重要な資料を失ってしまう行為です。
実務上、非常にもったいないと感じるのが、警察から連絡が来たことをきっかけに、SNSのメッセージや口座売買の募集画面などを削除してしまうケースです。依頼者としては、「犯罪に関係するやり取りだから、残しておくとまずい」と考えてしまうのだと思います。しかし、弁護士から見ると、そのメッセージの中には、むしろ本人がどの程度の認識で行動していたのかを判断するための重要な資料が含まれていることがあります。
例えば、「口座を渡せば報酬を払う」としか説明されていなかったのか、「特殊詐欺に使う」などと明確に説明されていたのかでは、事件の見方が大きく変わります。また、相手からどのような指示を受けていたのか、本人が何を質問していたのか、相手がどのような説明をしていたのかも重要です。そのため、私はこのような相談を受けた場合、「とりあえず全部消しましょう」とは絶対に言いません。むしろ、募集画面、SNSのDM、振込履歴、宅配便の伝票、相手から指定された住所、報酬の入金記録など、事件に関係する資料はできる限りそのまま保存してもらうようにしています。
私がご相談を受けた際、まずお願いするのは、関連する証拠をすべて保全していただくことです。例えば、以下のようなものが挙げられます。
- 募集内容のスクリーンショット:どのような条件で募集されていたかを示す客観的な証拠です。
- 相手とのやり取りの全文:「犯罪に使うとは聞いていなかった」「簡単なアルバイトだと説明された」といった、あなたの認識を証明する上で最も重要になります。
- 報酬の振込履歴:誰から、いくら支払われたかを示す証拠です。
- 通帳やカードの送付記録:レターパックや宅配便の伝票など、いつ、どこに送ったかを示す証拠です。
これらの記録は、あなたが「騙された被害者」という側面も持つことや、犯罪への関与の度合いが低いことを主張するための重要な資料です。不安な気持ちは分かりますが、絶対に消さずに、そのまま弁護士に見せてください。
自首を考える方へ|メリット・デメリットと弁護士の役割
まだ警察から連絡が来ていない段階で、自ら警察に出頭して罪を申告することを「自首」といいます。
自首が成立すれば、刑法第42条により、裁判になった際に刑が軽くなる可能性(任意的減軽)があります。これは大きなメリットです。また、捜査に協力的な姿勢を示すことで、検察官が不起訴処分を選択しやすくなることも期待できます。
しかし、デメリットもあります。自首したからといって、必ずしも逮捕されないとは限りません。警察がまだ事件を把握していなかった場合、自首によって捜査が開始されるきっかけになることもあり得ます。
自首すべきかどうかは、あなたの状況によって慎重に判断する必要があります。一番危険なのは、一人で警察署に行き、準備不足のまま取調べを受けてしまうことです。
弁護士に事前に相談すれば、有利な証拠を揃えた上で、自首に同行することが可能です。弁護士が隣にいることで、不当な取調べを防ぎ、逮捕のリスクにも配慮しながら、あなたの反省の気持ちを捜査機関に的確に伝えることができます。より詳しい内容については、自首・出頭に関する解説をご覧ください。

口座売買で逮捕されたら弁護士に相談すべき3つの理由
私が口座売買事件の相談を受けた際、依頼者から比較的よく聞くのが、「自分は口座を売っただけで、詐欺なんてしていません」という言葉です。もちろん、口座を譲渡したことと、その口座を利用した詐欺行為そのものは、まず区別して考える必要があります。しかし、捜査機関から見ると、「誰がその口座を提供したのか」「どのような経緯で口座が第三者に渡ったのか」「口座に入金されたお金について本人は何を認識していたのか」といった事情も重要になります。
そのため、相談を受けた際には、「詐欺をやっていないから大丈夫」と安心させるのではなく、口座を譲渡するまでの経緯を時系列に沿って一つずつ確認するようにしています。特に重要なのは、本人がどの時点で何を知っていたのかです。募集内容を見た時点、相手とやり取りした時点、口座を渡した時点、報酬を受け取った時点、口座が実際に利用されたことを知った時点では、本人の認識がそれぞれ異なることがあります。ここを曖昧にしたまま事情を説明すると、後になって説明の食い違いが生じることがあります。
口座売買の問題に直面したとき、なぜ弁護士への相談が不可欠なのでしょうか。その理由は大きく3つあります。
- 早期の身柄解放(釈放)を目指せるから
逮捕・勾留されてしまうと、会社や学校に行けなくなり、社会生活に甚大な影響が出ます。弁護士は、逮捕直後から検察官や裁判官に対し、あなたが逃亡したり証拠を隠滅したりする恐れがないことを具体的に主張し、勾留を防いだり、早期の釈放を求めたりする活動を迅速に行います。 - 不起訴や執行猶予など、有利な処分を得られる可能性が高まるから
前述の通り、前科をつけないためには不起訴処分が極めて重要です。弁護士は、あなたの反省の情や、詐欺被害者への被害弁償、家族の支援体制などを検察官に説得的に伝え、起訴を思いとどまらせるよう働きかけます。万が一起訴されても、裁判で執行猶予付き判決を得られるよう、必要な弁護活動を行います。 - 家族や会社への影響を最小限に抑えられるから
逮捕された場合、今後の見通しや差入れの方法など、ご家族も大きな不安を抱えます。弁護士はご家族への説明やサポートを行うと同時に、会社に知られずに事件を解決できるよう、解雇などの不当な処分を受けないよう、状況に応じた対応方法を一緒に検討します。
刑事事件では、早期対応が重要になることがあります。弁護士費用が心配な方もいらっしゃるかもしれませんが、まずは一度、あなたの状況をお聞かせください。
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まとめ|口座売買の問題に直面した場合の対応
口座売買は、決して「軽い」犯罪ではありません。しかし、犯してしまった過ちから目をそらさず、誠実に向き合うことで、人生をやり直すことは十分に可能です。
今、あなたに必要なのは、一人で悩み続けることではなく、勇気を出して専門家に助けを求めることです。早めに相談することで、今後の対応方針を整理しやすくなります。
私たちの事務所名である「フォワード」には、ご依頼者様が人生の困難を乗り越え、前へ進むことを全力でサポートしたいという強い願いが込められています。
この問題を乗り越え、再び前を向いて歩き出すために。私たちが、状況に応じた対応を最後までサポートします。まずは法律相談から、あなたの話をお聞かせください。
傷害罪の示談金相場は?金額を左右する事情と交渉の流れを弁護士が解説
傷害事件の示談金に「定価」はない|まず知るべき基本構造
傷害事件に巻き込まれてしまったとき、加害者側、被害者側を問わず、多くの方が真っ先に知りたいと思うのが「示談金の相場はいくらなのか?」ということではないでしょうか。多くの刑事事件の弁護に携わってきた福岡フォワード法律事務所の代表弁護士秀﨑が丁寧に解説します。
まずご理解いただきたい最も重要なことがあります。それは、傷害事件の示談金に、法律で定められた「定価」や「料金表」のようなものは一切存在しない、ということです。
インターネットで検索すると「全治1週間の打撲なら〇〇万円」といった情報が見つかるかもしれませんが、それを鵜呑みにしてしまうのは非常に危険です。なぜなら、実際の示談金は、画一的な相場で決まるのではなく、個別の事件ごとに発生した損害を一つひとつ積み上げて算出されるからです。
示談金の基本的な構造は、大きく分けて以下の2つの要素で構成されています。
- ①財産的損害(実損害):事件によって実際に発生した金銭的な損害です。具体的には、治療費や通院交通費、仕事を休んだことによる減収(休業損害)などがこれにあたります。
- ②精神的損害(慰謝料):怪我をさせられたことによる精神的な苦痛に対する賠償金です。
つまり、最終的な示談金の額は、これら①と②を合算し、さらに後ほど詳しく解説する様々な個別事情(怪我の程度、犯行の悪質性など)を考慮して、当事者間の交渉によって決められるのです。傷害事件の示談交渉の全体像については、示談で解決したいで体系的に解説していますので、併せてご覧ください。

弁護士が語る「相場だけで判断してはいけない」本当の理由
「傷害罪なら○万円」という相場だけで判断しないことが重要です
私が傷害事件のご相談を受ける際、加害者側の方から「傷害罪の示談金は30万円くらいが相場と聞いたのですが、30万円を払えばよいのでしょうか」と質問されることがあります。
しかし、私はこのような場合、まず「相場の金額から考えるのではなく、被害者に実際にどのような損害が発生しているのかを確認しましょう」と説明しています。
例えば、同じ「顔を殴った」という事件でも、数回通院しただけで治癒したケースと、鼻骨を骨折して長期間通院したケースとでは、必要となる賠償額は大きく異なります。
治療費や通院交通費、仕事を休んだことによる休業損害など、具体的な損害を一つずつ確認した上で、そこに慰謝料を加えて示談金を検討する必要があります。
したがって、「傷害罪の示談金は○万円」という数字は、あくまで参考資料にすぎません。実際の事件では、けがの内容、治療期間、仕事への影響、後遺症の有無、犯行態様などを総合して金額を検討することになります。
【弁護士の実例】「打撲だから大したことはない」は危険
以前、けんかの際に相手を一度殴ってしまったという方から相談を受けたことがあります。
依頼者としては、「相手は病院に行ったものの、骨折したわけではない。大したけがではないので、せいぜい数十万円程度だろう」と考えていました。
ところが、実際に被害者側の資料を確認すると、複数回の通院に加え、仕事を休んだ期間があり、治療費や交通費、休業損害も発生していました。
このケースで重要だったのは、「けがが軽いか重いか」だけで示談金を判断しなかったことです。
治療費はいくらなのか、通院は何回なのか、仕事を何日休んだのか、その休業によってどの程度収入が減ったのか――こうした事情を一つずつ確認していきました。
結果として、当初被害者側から提示された金額をそのまま支払うのではなく、損害の内容を確認した上で適切な金額を算定し、最終的に双方が納得できる内容で示談を成立させることができました。
このような経験から、私は「相手が軽傷だから安く済む」「相手が高額を請求してきたから、その金額を払わなければならない」という二つの考え方はいずれも適切ではないと考えています。
大切なのは、請求額の根拠を確認することです。この経験は、私自身も弁護士としての姿勢を再確認する機会となりました。
傷害事件における示談金の内訳と計算の考え方
では、具体的に示談金はどのような項目で構成され、それぞれどのように考えればよいのでしょうか。ここでは、示談金を構成する4つの主要な損害項目について、一つずつ詳しく解説していきます。ご自身の状況と照らし合わせながら読み進めてみてください。
①積極損害(実際にかかった費用)
積極損害とは、事件がなければ本来支払う必要のなかった、被害を回復するために実際にかかった費用のことです。主なものには以下のような項目があります。
- 治療費:診察料、手術費用、入院費、薬代など、治療にかかった実費です。
- 通院交通費:病院への通院にかかった公共交通機関の運賃やガソリン代、駐車場代などです。タクシー代も、怪我の状況(例:骨折で歩行が困難)など、必要性が認められれば対象となります。
- 入院雑費:入院中に必要となる日用品(パジャマ、洗面用具など)の購入費です。実務上は、入院1日あたり1,500円程度で計算されることが一般的です。
- 文書作成費:示談交渉に必要な診断書や診療報酬明細書などの発行手数料です。
- その他:装具・器具の購入費(松葉杖やコルセットなど)や、付添看護費なども含まれる場合があります。
これらの費用を請求(または支払い)する際には、必ず領収書やレシートなどの客観的な証拠が必要となります。また、人身事故の損害賠償と同様に、どこまでが事件と因果関係のある損害として認められるかが重要になります。
②休業損害(仕事を休んだことによる減収)
休業損害とは、怪我の治療のために仕事を休まざるを得なくなり、その結果生じた収入の減少分を指します。これは、被害者の職業によって計算方法が異なります。
- 会社員・パート・アルバイトの方:原則として「1日あたりの基礎収入 × 休業日数」で計算します。勤務先に「休業損害証明書」を作成してもらい、事故前3ヶ月間の給与をもとに1日あたりの収入を算出するのが一般的です。なお、有給休暇を使って通院した場合でも、本来は他の目的で使えたはずの休暇を治療のために使わざるを得なかったとして、休業損害として請求することが可能です。
- 自営業者(個人事業主)の方:原則として、事故前年の確定申告書に記載された所得額をもとに、1日あたりの基礎収入を算出して計算します。
- 主婦(主夫)の方:現実に収入を得ていなくても、家事労働には経済的な価値があると考えられています。そのため、賃金センサス(厚生労働省が発表する賃金に関する統計)の女性労働者の平均賃金などを用いて、主婦の休業損害を請求することができます。
いずれの場合も、休業の必要性や日数を証明するために、医師の診断書が重要な証拠となります。
③慰謝料(精神的苦痛に対する賠償)
慰謝料とは、怪我をさせられたことによる痛みや恐怖、不自由な生活を強いられたことなど、目には見えない精神的な苦痛に対して支払われる賠償金です。傷害事件の慰謝料には法律で定められた明確な計算式はありません。しかし、実務上は、膨大な裁判例の蓄積がある交通事故の慰謝料算定基準が参考にされることが多くあります。
交通事故の慰謝料には3つの基準がありますが、裁判になった場合に用いられる最も高額な基準が「弁護士基準(裁判基準)」です。この基準では、入通院期間に応じて慰謝料の目安が定められています。
ただし、これはあくまで目安です。傷害事件は故意による加害行為であり、交通事故(通常は過失)よりも悪質性が高いと評価されることが多いため、実際の慰謝料額は次のセクションで解説する様々な個別事情を考慮して、最終的に決定されます。この点は、交通事故の慰謝料の考え方とは少し異なる部分です。

④逸失利益(後遺障害が残った場合の将来の減収)
逸失利益とは、傷害事件が原因で後遺障害が残り、以前のように働けなくなった結果、将来得られるはずだった収入が減少してしまうことに対する賠償です。これは、特に重傷を負った事案で極めて重要な損害項目となります。
逸失利益は、以下の式を用いて計算されるのが一般的です。
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
非常に専門的な計算が必要となり、特に「労働能力喪失率」を決定するためには、後遺障害等級の認定という手続きを経る必要があります。もし後遺障害が残るような重い怪我を負った場合は、安易に示談に応じるべきではありません。より詳しい計算方法については、後遺障害の逸失利益の記事で解説していますので、そちらをご覧ください。
示談金の金額を左右する個別事情【弁護士の視点】
これまで解説した損害項目を基礎としながらも、最終的な示談金の額は、事件ごとの様々な個別事情によって大きく変動します。ここでは、弁護士が実際の交渉で考慮する、示談金を増額または減額させる可能性のある事情について解説します。
示談金が増額する可能性のある事情
以下のような事情がある場合、特に慰謝料が増額される傾向にあります。
- 怪我の程度が重い:骨折や内臓損傷、神経の損傷など、治療が長期にわたる重傷である場合や、後遺障害が残る可能性がある場合は、被害者の苦痛が大きいと判断されます。
- 犯行態様が悪質:凶器を使用している、一方的かつ執拗な暴行を加えている、多人数で一人を攻撃したなど、犯行が悪質・危険であるほど、慰謝料は高額になります。
- 被害者の精神的苦痛が特に大きい:顔に消えない傷跡が残った、事件が原因でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したなど、被害者の受けた精神的ダメージが甚大である場合も増額事由となります。
- 加害者の社会的地位や資力:加害者が医師や会社役員など社会的地位が高い場合や、資力が十分にある場合には、より高額な慰謝料が認められることがあります。
- 加害者の反省の態度が見られない:謝罪が一切ない、責任を認めないなど、不誠実な対応は、被害者の処罰感情を強め、交渉を難航させるだけでなく、慰謝料増額の一因ともなり得ます。
示談金が減額される可能性のある事情
一方で、以下のような事情は、示談金を調整する際に考慮されることがあります。
- 被害者側にも落ち度があった:いわゆる「喧嘩両成敗」のケースで、被害者側から先に手を出した、挑発的な言動があったなど、事件発生の原因の一端が被害者にもある場合です。交通事故における過失割合の考え方に近いものですが、どの程度の落ち度があったかの判断は非常に難しい問題です。
- 加害者が真摯に謝罪し、早期に賠償を申し出ている:事件後、速やかに謝罪し、誠意をもって賠償の申し出を行うことは、被害者の感情を和らげ、円満な解決に繋がりやすくなります。
- 加害者の経済状況:加害者に十分な支払い能力がない場合、現実的に支払い可能な範囲で示談金額を調整せざるを得ないこともあります。ただし、これはあくまで被害者の理解が得られた場合に限られます。
これらの事情をどのように評価し、交渉に反映させるかは、高度な専門知識と経験が求められます。ご自身のケースでどの要素が重要になるか、一度専門家に相談してみることをお勧めします。
傷害事件の示談交渉から解決までの実践的7ステップ
「示談金の構造はわかったけれど、具体的にどう動けばいいのか?」という疑問にお答えするため、ここからは示談交渉の開始から完全な解決までの流れを、7つの具体的なステップに分けて解説します。全体像を把握することで、今やるべきことが明確になるはずです。

ステップ1:被害者の連絡先の入手
示談交渉を始めるには、まず被害者の連絡先を知る必要があります。しかし、捜査機関(警察や検察)は、加害者本人に直接被害者の連絡先を教えることは原則としてありません。これは、加害者が被害者を脅したり、証拠隠滅を図ったりするのを防ぐためです。
ここで弁護士の役割が重要になります。弁護士が代理人として就任すれば、検察官を通じて被害者に連絡を取り、示談交渉の申し入れをしたい旨を伝えてもらうことが可能です。被害者が同意すれば、弁護士限りで連絡先を開示してもらえる場合があります。この最初のステップは、盗撮などの他の刑事事件でも同様です。
ステップ2:謝罪と損害状況の確認
被害者と連絡が取れたら、まず何よりも先に、加害者側の代理人として真摯な謝罪の意を伝えます。その上で、冷静に話し合いを進めるため、具体的な損害額を算定するのに必要な資料(診断書、治療費の領収書、休業損害証明書など)の提供を丁寧にお願いします。感情的な対立を避け、客観的な事実に基づいた交渉の土台を築くための、非常にデリケートで重要な段階です。
ステップ3:示談金額の提示と交渉
被害者から提供された資料をもとに、前述の計算方法に沿って損害額を算定し、慰謝料を加えた示談金額を提示します。加害者側としては誠意ある金額を提示し、被害者側は提示された金額の内訳や計算根拠が妥当であるかを精査します。
双方の希望額に隔たりがある場合は、なぜその金額になるのか、法的根拠や過去の裁判例などを示しながら、粘り強く交渉を重ね、お互いが納得できる落としどころを探っていきます。万が一、加害者が示談に応じない、あるいは被害者が不当に高額な要求を続けるといった場合には、民事訴訟などの別の手続きを検討することになります。
ステップ4:示談書の作成と内容の確認
示談金額や支払い方法などの条件について双方が合意に至ったら、その内容を法的に有効な書面である「示談書」として作成します。口約束だけでは、後になって「言った、言わない」のトラブルに発展するリスクが非常に高いため、必ず書面を取り交わすことが不可欠です。示談書には、以下の項目を正確に記載する必要があります。
- 事件の当事者(加害者・被害者)
- 事件の発生日時、場所、概要
- 示談金の金額、支払期日、支払方法
- 被害届の取下げに関する合意
- 接触禁止などの約束事(必要な場合)
- 清算条項
- 宥恕文言(ゆうじょもんごん)
- 作成年月日と当事者の署名・捺印
ステップ5:最重要条項「清算条項」と「宥恕文言」
示談書の中でも、特に法的な意味合いが強く、重要となることが多いのが「清算条項」と「宥恕文言」です。
- 清算条項:これは、「本示談書に定めるもののほか、当事者間には本件に関し何らの債権債務関係が存在しないことを相互に確認する」といった内容の条項です。この条項を入れることで、示談成立後の追加請求リスクを原則として抑え、紛争を完全に解決させる効果があります。
- 宥恕文言:これは、「被害者は加害者を宥恕し(許し)、刑事処罰を求めない」という被害者の意思を示す文言です。この一文があるかどうかで、検察官が起訴・不起訴を判断する際に与える影響が大きく変わってきます。加害者側にとって、前科をつけたくないと考えるのであれば、この宥恕文言を得ることが示談の最大の目標の一つとなります。
これらの条項がない不適切な示談書を作成してしまうと、示談の意味が半減してしまうため、作成は必ず専門家である弁護士に任せるべきです。
ステップ6:署名・捺印と示談金の支払い
完成した示談書の内容に双方が最終確認を行い、問題がなければ各自が署名・捺印します。示談書は同じものを2通作成し、加害者と被害者がそれぞれ1通ずつ保管するのが一般的です。そして、合意した内容に従って示談金を支払います。支払いは、示談書への署名・捺印と同時に行うのが原則(同時履行)で、後日のトラブルを避けるためにも、銀行振込など記録が残る方法で行うべきです。
ステップ7:示談書の提出と刑事手続きへの影響
無事に示談が成立し、示談金の支払いが完了したら、その示談書の写しを捜査機関(警察や検察)または裁判所に提出します。起訴前に示談が成立し、特に宥恕文言付きの示談書を提出できれば、検察官が「当事者間の問題は解決しており、処罰の必要性は低い」と判断し、不起訴処分となる可能性が非常に高まります。万が一起訴された後であっても、示談の成立は裁判官が刑の重さを決める(量刑)際に、被告人にとって非常に有利な事情として考慮されます。傷害事件で警察や検察に呼び出された場合、示談の成否は、その後の刑事手続や処分の見通しに影響する重要な事情となります。
傷害事件の示談に関するよくあるご質問
最後に、傷害事件の示談に関して、当事務所によく寄せられるご質問にお答えします。
Q. 示談金を支払えない場合はどうなりますか?
A. 経済的な事情で、合意した示談金を一括で支払うのが難しい場合、まずは被害者に分割払いの交渉を試みることになります。ただし、分割払いはあくまで被害者の同意があって初めて可能になるものです。被害者の不安を和らげるため、示談書を公正証書にしたり、親族に連帯保証人になってもらったりするなどの工夫が必要になることもあります。どうしても支払いができず示談が不成立に終わった場合、起訴されて厳しい刑事処分を受けるリスクが高まります。より詳しい対処法は「示談金を払えない場合の対応」の記事をご覧ください。
Q. 相手から法外な金額を請求されています。応じるべきですか?
A. 応じる必要はありません。加害者が支払うべき法的な義務があるのは、あくまで事件によって生じた客観的な損害に対する適正な賠償額の範囲内です。感情的に相場を大きく超える金額を請求されたとしても、それに従う義務はありません。ただし、感情的に「払えない」と突っぱねるだけでは交渉が決裂してしまいます。なぜその金額が法外なのか、弁護士を通じて冷静に、法的根拠を示しながら交渉することが、解決への近道です。
Q. 示談が成立すれば、必ず不起訴になりますか?
A. 100%ではありませんが、その可能性は非常に高くなります。特に、被害者が加害者を許すという宥恕文言付きの示談が成立した場合、検察官は不起訴処分を選択することがほとんどです。しかし、事件の態様が極めて悪質である場合(計画的な犯行、非常に重い後遺障害が残ったなど)や、加害者に同種の前科が多数あるようなケースでは、示談が成立しても起訴される可能性は残ります。これは、撮影罪などの他の犯罪でも同様のことが言えます。
Q. 示談交渉はいつまでに終えるべきですか?
A. 最も重要なタイムリミットは「検察官が起訴・不起訴を判断するまで」です。加害者が逮捕・勾留されている事件では、逮捕から最大でも23日間という非常に短い期間で起訴されるかどうかが決まってしまいます。この期間内に示談を成立させることが、前科をつけずに事件を解決するためには極めて重要です。したがって、示談交渉は一刻も早く開始する必要があります。もしご家族が逮捕・勾留されてしまった場合は、すぐに弁護士にご相談ください。
まとめ|傷害事件の示談はスピードと専門知識が鍵です
この記事では、傷害事件における示談金の考え方から、具体的な交渉の流れまでを詳しく解説してきました。最後に、最も重要なポイントを改めて確認しましょう。
- 傷害事件の示談金に「定価」はなく、治療費や休業損害、慰謝料などを個別具体的に算定する必要がある。
- 最終的な金額は、怪我の程度や犯行の悪質性など、様々な個別事情を考慮して決まる。
- 示談交渉は、謝罪から始まり、「清算条項」や「宥恕文言」を盛り込んだ示談書の作成まで、法的に重要なステップを踏む必要がある。
- 特に不起訴処分を目指す上では、検察官が起訴を判断するまでの迅速な対応が何よりも重要。
突然、傷害事件の当事者になってしまい、どうすればよいのか分からず、大きな不安を抱えていらっしゃることと思います。示談交渉には期限や手続上の制約があるため、早めに対応方針を確認することが重要です。示談交渉は、法律の専門知識と交渉の経験が結果を大きく左右します。
福岡フォワード法律事務所では、傷害事件を含む刑事事件の示談交渉に対応しています。ご依頼者様のお話を丁寧にお伺いし、事案に応じた解決方針をご提案します。まずは、お一人で抱え込まずに、当事務所の法律相談をご利用ください。
加害者が示談に応じない場合はどうする?被害者が取れる請求手段を解説
加害者が示談に応じなくても、泣き寝入りする必要はありません
暴行、盗撮、誹謗中傷…、心と身体に深い傷を負わされたにもかかわらず、加害者が謝罪もせず、示談にも応じない。その不誠実な態度に、強い憤りや無力感を覚えていらっしゃるのではないでしょうか。「このままでは泣き寝入りするしかないのか」と、不安を感じている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、どうか諦めないでください。加害者が示談に応じなくても、あなたが受けた被害に対する損害賠償を請求する権利が消えることは決してありません。
そもそも示談とは、あくまで当事者間の話し合いによる解決手段の一つに過ぎません。加害者が刑事罰を受けるかどうかを決める「刑事手続き」と、あなたが受けた損害の回復を目指す「民事の損害賠償請求」は、全く別の手続きです。示談が決裂したからといって、民事上の請求権がなくなるわけではないのです。
この記事では、不誠実な加害者に対して、法的な手続きを通じて正当な賠償を求めるための具体的なステップを、福岡市で刑事事件に強い福岡フォワード法律事務所の代表弁護士が分かりやすく解説します。今後の対応を検討する際の参考としてご覧ください。
まず冷静に。請求の準備と証拠確保が最優先
加害者の態度に感情的になるのは当然ですが、具体的な行動を起こす前に、まずやるべき最も重要なことがあります。それは、冷静になって「証拠」を確保し、請求の根拠を固めることです。法的な手続き、特に裁判では、客観的な証拠が何よりも重要になります。
例えば、以下のようなものが有効な証拠となり得ます。
- 暴行・傷害事件:診断書、怪我の写真、治療費の領収書、防犯カメラの映像
- 盗撮・性被害:犯行を記録したデータ、目撃者の証言、精神科の診断書
- 名誉毀損・誹謗中傷:問題の書き込みがあるウェブページやSNSのスクリーンショット、URL
- 器物損壊:壊された物の写真、修理費用の見積書や領収書
加害者との直接のやり取り(メール、LINE、通話の録音など)も証拠になる可能性がありますが、感情的な応酬は避けましょう。後の手続きで不利に働く可能性もあるため、冷静な対応が肝心です。客観的な証拠は、あなたの主張を裏付ける重要な資料となります。

損害額を証明する資料を揃える
損害賠償を請求するためには、「具体的にいくらの損害を受けたのか」を客観的な資料で証明する必要があります。請求する損害項目ごとに、以下のような資料を丁寧に集めていきましょう。
- 治療関係費:病院の領収書、薬局のレシート、通院にかかった交通費の記録(日付、区間、金額)
- 休業損害:勤務先に発行してもらう休業損害証明書、事故前3ヶ月分の給与明細、源泉徴収票
- 慰謝料:精神的苦痛に対する賠償です。明確な金額を示す資料はありませんが、入通院期間がわかる診断書や、被害によって受けた精神的影響(PTSDなど)を証明する医師の診断書などが算定の根拠となります。
- 物的損害:壊れた物の修理見積書、同等品を購入した場合の領収書など
特に慰謝料については、過去の裁判例などからある程度の相場が存在します。感情的に法外な金額を請求するのではなく、客観的根拠に基づいた適正な損害額を算出することが、最終的な回収の可能性を高める上で非常に重要です。
被害届や刑事告訴は済んでいますか?
警察に被害を申告する「刑事手続き」は、民事の損害賠償請求においても大きな意味を持ちます。
被害届の提出や刑事告訴は、警察による捜査開始のきっかけになります。その過程で、警察が客観的な証拠を収集・保全してくれたり、加害者を特定してくれたりすることがあります。これらの捜査資料は、後の民事訴訟で有力な証拠となる可能性があります。
また、加害者側からすれば、刑事罰を受ける可能性が出てくるため、そのプレッシャーから態度を改め、民事の損害賠償の支払いに応じてくるケースも少なくありません。
まだ警察に相談されていない場合は、速やかに行動することをお勧めします。民事と刑事、両面からアプローチすることが、問題解決への近道となる場合があります。例えば、ストーカー被害のように、身の安全を確保するためにも刑事手続きは重要です。
【ステップ1】内容証明郵便で「公式に」請求する
証拠と損害額の資料が揃ったら、次に、具体的な手続きに進みます。その第一歩が「内容証明郵便」の送付です。
これは単なる手紙ではありません。「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が公的に証明してくれるサービスです。これにより、あなたの請求の意思を「公式な記録」として残すことができます。
内容証明郵便を送る目的は、主に以下の3つです。
- 加害者への心理的プレッシャー:法的な手続きを本気で考えているという強い意志を示し、支払いを促します。弁護士の名前で送付すると、その効果はさらに高まります。
- 時効完成の猶予:内容証明を送付することで、損害賠償請求権の消滅時効の完成を6ヶ月間猶予させることができます。その間に訴訟の準備を進めることが可能になります。
- 裁判上の証拠:万が一裁判になった場合、「話し合いでの解決を試みたが、相手が応じなかった」という事実を証明する証拠の一つになります。
ただし、内容証明郵便自体に支払いを強制する法的な効力はありません。あくまで「最終通告」であり、相手の出方を見るための手段と位置づけられます。
内容証明を無視された場合の訴訟の検討
もし内容証明郵便を送っても加害者が無視する、あるいは支払いを明確に拒否してきた場合、残念ながら当事者間の話し合いによる解決は困難と言わざるを得ません。この時点で、「民事訴訟」へ進むことを具体的に検討する必要があります。
「示談に応じない」と聞くと、加害者が一切お金を払う気がないように思われるかもしれません。しかし、私がこれまで扱ってきた案件の中には、請求額の根拠が分からなかったり、本人なりの言い分があったりと、様々な理由で交渉が停滞しているケースもありました。まずは「なぜ応じないのか」を冷静に見極めることが重要です。
しかし、内容証明という最終通告すら無視するということは、支払いの意思がない可能性が極めて高いと判断せざるを得ません。ここからは、裁判所という中立公正な第三者の判断を仰ぎ、あなたの正当な権利を実現するための最終手段に移ります。ここからは、債権回収のための法的手続きを具体的に検討します。
【ステップ2】民事訴訟で「支払義務」を確定させる
「裁判」と聞くと、時間も費用もかかり、精神的にも大変そうだというイメージがあるかもしれません。しかし、民事訴訟は、不誠実な相手に対してあなたの権利を実現するための、法律で認められた正当な手続きです。
民事訴訟の最大の目的は、裁判官に証拠を客観的に判断してもらい、「加害者には、被害者であるあなたに対して〇〇円を支払う義務がある」という公的なお墨付き(判決)を得ることにあります。この判決は「債務名義」と呼ばれ、後の強制執行の際に不可欠なものとなります。
訴訟の大まかな流れは以下の通りです。
- 訴状の提出:裁判所に訴状と証拠を提出します。
- 口頭弁論:月に1回程度のペースで、裁判所で互いの主張を繰り返します。
- 尋問:必要に応じて、当事者や証人への尋問が行われます。
- 判決:裁判官が最終的な判断を下します。
手続きは数ヶ月から1年以上かかることもありますが、弁護士に依頼すれば、書類作成や裁判所への出廷など、手続きの大部分を任せることができます。近年では民事訴訟のデジタル化も進み、手続きの負担も軽減されつつあります。

【ステップ3】判決が出ても支払わない場合の最終手段
無事に勝訴判決を得られたとしても、残念ながらそれだけではお金が自動的に振り込まれるわけではありません。判決とは、あくまで「強制的に損害賠償を回収する権利」を得たという段階に過ぎないのです。
私が損害賠償請求のご相談を受ける際には、「裁判で勝てるか」という点だけでなく、「勝った場合に、実際に回収できる見込みはどのくらいあるか」という点を常に意識しています。判決を得ることは通過点であり、実際に賠償金があなたの手元に渡るまでが「被害回復」だと考えているからです。
判決後も加害者が支払いに応じない場合、いよいよ最終手段である「強制執行」の手続きに進むことになります。これは、国家権力によって加害者の財産を差し押さえ、そこから強制的に支払いを受ける手続きです。
強制執行の前に検討すべき「財産調査」
強制執行を実効的に進めるためには、財産調査が重要です。なぜなら、差し押さえるべき財産(どの銀行のどの支店に預金があるか、どこで働いているかなど)は、被害者側で特定しなければならないからです。
しかし、相手の財産をどうやって調べればよいのでしょうか。弁護士や裁判所を通じて、相手の財産を調査する方法があります。
- 弁護士会照会制度:弁護士が所属する弁護士会を通じて、企業や団体に必要な情報を照会する制度です。例えば、携帯電話番号から契約者情報を割り出し、銀行口座を特定する糸口を探すことなどが考えられます。
- 財産開示手続:裁判所に相手を呼び出し、自身の財産状況について陳述させる手続きです。
- 第三者からの情報取得手続:2020年の民事執行法改正で導入された手続きです。裁判所を通じて、金融機関に預貯金口座等の情報提供を求めることができます。また、養育費等の扶養義務に係る請求権や、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権など一定の場合には、市町村や年金機構に勤務先情報の提供を求められることがあります。
これらの制度を活用することで、以前よりも格段に財産調査がしやすくなり、回収の可能性が高まっています。
給与・預金・不動産…何を差し押さえるか
財産調査によって差し押さえるべき財産が判明したら、いよいよ強制執行の申立てを行います。対象となる財産によって、いくつかの種類があります。
- 給与差押え:最も効果的な手段の一つです。裁判所から加害者の勤務先へ通知が行き、給料の一部(原則として手取り額の4分の1まで)が、完済まで毎月あなたに直接支払われるようになります。加害者にとっては、会社に事情を知られるという大きなプレッシャーにもなります。より詳しい給与差押えの上限額については別の記事で解説しています。
- 預金差押え:銀行名と支店名が特定できれば、その口座を差し押さえることができます。裁判所からの通知が銀行に届いた時点での口座残高から、請求額を回収します。
- 不動産・自動車などの差押え:これらは最終的に競売にかけられ、その売却代金から支払いを受けることになります。ただし、手続きが複雑で時間もかかるため、まずは給与や預金を狙うのが一般的です。
どの財産を、どの順番で差し押さえるか。状況に応じた戦略を立てることが、回収を成功させる上で重要になります。
加害者に支払い能力がない…費用倒れのリスクも直視する
一方で、回収できないリスクもあります。それは、時間と費用をかけて裁判で勝訴したとしても、加害者に差し押さえるべき財産が全くない「無資力」の場合、残念ながら回収ができないというリスクです。弁護士費用や裁判費用だけがかかってしまう「費用倒れ」の可能性は、ゼロではありません。
しかし、だからといってすぐに諦める必要はありません。私たち弁護士は、ご依頼を受ける際に、まず回収の可能性があるかどうかを見極めることから始めます。
例えば、加害者の勤務先が分かっているか、持ち家はあるか、どのような生活をしているかといった情報から、ある程度の財産状況を推測し、費用対効果を冷静に分析します。十分な見通しがないまま訴訟へ進むのではなく、勝訴後の回収可能性も踏まえて、現実的な対応方針を検討します。もし回収の可能性に不安があるなら、一度回収可能性を相談してみることをお勧めします。あなたの状況に合わせた最適な解決策を一緒に考えましょう。

被害者の方が絶対にやってはいけないNG行動
加害者に対する正当な怒りの感情が、かえってご自身の立場を不利にしてしまう行動につながることがあります。どんなに腹が立っても、以下の行動は絶対に避けてください。
被害者の方が加害者に強い怒りを抱くのは当然のことです。しかし、その怒りをそのまま加害者への直接的な連絡やSNSでの公開という形にしてしまうと、問題を複雑にし、解決を遠ざけてしまうことがあります。弁護士は、あなたの感情を否定するのではなく、その感情とは別に、「どうすれば最も現実的に被害を回復できるのか」を一緒に考え、法に則った対応方法を示す役割を担っています。
- 自宅や職場への執拗な連絡・押しかけ:ストーカー規制法や威力業務妨害罪に問われる可能性があります。
- SNSなどでの個人情報暴露や誹謗中傷:ネットの誹謗中傷は、名誉毀損罪やプライバシー侵害となり、逆にあなたが損害賠償を請求される立場になりかねません。
- 法的な根拠なく高圧的に支払いを迫る:「支払わないとどうなるか分かっているのか」といった言動は、恐喝罪とみなされる危険性があります。
これらの行動は、民事訴訟で裁判官の心証に影響する可能性があるだけでなく、内容によっては、あなた自身が法的責任を問われるおそれがあります。被害回復は、法的な手続きに沿って進めることが重要です。
示談に応じない加害者への対応は、弁護士にご相談ください
加害者が示談に応じない場合、被害者の方がたった一人で戦うには、法的な知識や手続きの面で、あまりにも負担が大きすぎます。
内容証明郵便の作成から、訴訟の提起、そして勝訴判決後の財産調査と強制執行まで。この一連の流れを戦略的に、そして粘り強く進めていくには、専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
弁護士に依頼するメリットは、主に以下の3点です。
- 精神的・時間的負担の軽減:不誠実な加害者と直接やり取りする必要がなくなり、煩雑な手続きも全て任せられます。
- 法的に有利な手続きの選択:あなたの状況に合わせて、訴訟、強制執行、財産調査といった手段を的確に選択し、実行します。
- 回収可能性を踏まえた対応:専門的な知識と経験をもとに財産調査や強制執行の方法を検討し、回収可能性を踏まえて対応します。
福岡フォワード法律事務所は、困難な状況に置かれた被害者の方の事情を丁寧に伺い、事案に応じた法的対応を検討しています。不誠実な加害者への対応に、一人で悩み、心をすり減らす必要はありません。まずは、あなたの状況をお聞かせください。今後の対応について、法的な観点からサポートします。
詳しい法律相談についての流れもご覧いただけます。
示談金を払えないとどうなる?分割交渉と不起訴を目指す対応を弁護士が解説
示談金を払えない…でも諦めないでください
刑事事件の加害者となってしまい、被害者の方から示談金を提示されたものの、とても一括では支払えない――。今、あなたやご家族は、そんな絶望的な状況に置かれ、「お金がないから示談ができず、今後の生活に大きな影響が出てしまう」と、強い不安と焦りを感じていらっしゃるかもしれません。
しかし、対応を検討できる余地はあります。経済的に厳しい状況であっても、すぐに示談交渉を断念する必要はありません。示談金を支払えないことが、直ちに罪を重くするわけではないのです。大切なのは、被害者の方への償いの気持ちを真摯に示し、粘り強く解決の道を探ることです。
この記事では、示談金の一括払いが難しいという厳しい現実を前に、それでも不起訴処分を目指すために検討すべき対応を、刑事事件に取り組む福岡フォワード法律事務所の代表弁護士が解説します。特に「分割払い」での示談交渉という、現実的な選択肢に焦点を当てていきます。この記事では、次に検討すべき対応を整理します。示談という制度の全体像については、示談による円満な解決の記事で詳しく解説していますので、そちらも併せてご覧ください。
示談金を払えないとどうなる?想定される3つのリスク
まず、現状を冷静に把握するために、示談が成立しなかった場合に起こりうる法的なリスクについてご説明します。これは、いたずらに不安を煽るためではありません。「なぜ、粘り強く示談交渉を続けるべきなのか」その重要性を正しく理解していただくためです。

リスク1:起訴されて前科がつく可能性が高まる
刑事事件において、検察官が起訴するか、それとも不起訴(起訴猶予)とするかを判断する際、示談の有無は極めて重要な要素となります。検察官は、「被害がどの程度回復されたか」そして「被害者が加害者の処罰を望んでいるか」を非常に重視します。
示談が成立していないと、被害は回復されておらず、被害者の処罰感情も依然として強いままだと判断されやすくなります。その結果、検察官が起訴を選択する方向に判断する可能性があります。一度起訴されて有罪判決が確定すれば、たとえ罰金刑であっても前科がつき、その後の就職や特定の資格取得などで大きな不利益を被る可能性があります。
リスク2:起訴された場合に実刑判決など重い処分に繋がる
万が一、起訴されてしまった場合でも、示談の成否は裁判官が下す判決の重さ(量刑)に大きく影響します。裁判官は、被告人がどれだけ真摯に反省し、被害者への謝罪と賠償を尽くしたかを量刑の判断材料とするからです。
示談が成立し、被害弁償や謝罪の状況、被害者の意向などが確認できる場合には、執行猶予付きの判決や、より軽い刑罰に向けた事情として考慮される可能性があります。しかし、示談不成立のままでは、反省の態度が不十分とみなされ、執行猶予がつかずに実刑判決(刑務所に収監されること)となるリスクや、罰金額が高くなる可能性が高まります。実際に、当事務所で示談交渉を行った解決事例もございます。
リスク3:民事訴訟で損害賠償を請求され、財産を差し押さえられる
刑事事件の手続きと、民事上の損害賠償の問題は全く別のものです。たとえ刑事事件で不起訴になったり、刑罰を受け終わったりしたとしても、被害者があなたに対して損害賠償を求める権利が消えるわけではありません。
示談が成立しない場合、被害者は別途、民事訴訟を提起して損害賠償を請求することができます。そして、裁判で判決が確定すれば、あなたの給与や預貯金といった財産を強制的に差し押さえる「強制執行」が可能になります。示談には、こうした民事上の紛争も一挙に解決するという大きなメリットがあるのです。具体的な給与差押えのリスクについては、「給与差押えの上限額や対応方法」で詳しく解説しています。
【不起訴を目指す】分割払いで示談を成功させる交渉戦略
資金を一括で用意できない場合でも、示談交渉の方法を検討できることがあります。ここからは、不起訴処分を目指すうえで検討される分割払いによる示談交渉の方法について解説します。ただ分割をお願いするのではなく、「どうすれば被害者の方が分割払いに応じてくれるか」「どうすれば検察官にあなたの真摯な姿勢が伝わるか」という視点が重要になります。
なぜ分割払いは難しい?被害者の不安を理解する
まず、交渉の前提として、なぜ多くの被害者の方が分割払いをためらうのか、そのお気持ちを理解することが不可欠です。被害者の方は、事件によって心身ともに傷つき、あなたに対して恐怖心や不信感を抱いています。そんな中で分割払いを提案されると、次のような不安を感じるのは当然のことです。
- 「本当に最後まで支払ってくれるのだろうか?」
- 「途中で連絡が取れなくなったらどうしよう…」
- 「分割なんて、本当に反省しているとは思えない」
こうした被害者の方の不安を無視して、一方的に「分割でお願いします」と要求しても、交渉は決裂してしまいます。効果的な交渉の第一歩は、この不安を正面から受け止め、それを解消するための具体的な提案をすることにあるのです。
交渉の鍵①:誠意を示す「頭金」を最大限用意する
分割交渉において、「頭金」は誠意や支払い意思を示す重要な事情となります。たとえ示談金の総額から見れば少額であっても、示談成立時にまずまとまった金額を支払うことで、「決して支払いを先延ばしにしているわけではない」「本気で償うつもりだ」という強い意志を示すことができます。
ご自身の貯金だけでは足りない場合、ご両親や親族に頭を下げて借りることも真剣に検討すべきです。あらゆる手を尽くして頭金を用意するその姿勢が、被害者の方の心を動かし、ひいては検察官にも「被害回復に向けて真摯な努力をしている」という良い心証を与えることに繋がります。ただし、安易なクレジットカードの現金化など、リスクの高い方法で資金を調達することは避けるべきです。
交渉の鍵②:信頼を得るための現実的な支払計画を立てる
次に重要なのが、具体的で実現可能な支払計画を提示することです。見栄を張って到底不可能な計画を立てても、すぐに破綻してしまい、かえって信頼を失うだけです。
現在の収入と支出を正直に開示し、「毎月〇日に、〇万円を、〇回にわたって支払います」というように、誰が見ても「これなら無理なく支払いを続けられるだろう」と納得できるような、現実的な計画を作成する必要があります。弁護士が間に入ることで、あなたの経済状況を客観的に説明し、被害者の方にも安心して受け入れてもらえるような、説得力のある支払計画を提示することが可能になります。

交渉の鍵③:法的に有効な示談書を作成する
分割払いの合意ができた場合、その内容を法的に有効な書面、つまり「示談書」として残すことが絶対に不可欠です。口約束だけでは、後々「言った、言わない」のトラブルになりかねません。
特に分割払いの場合、示談書には以下のような条項を盛り込むことが重要です。
- 支払計画の明記:毎月の支払額、支払日、振込先などを具体的に記載します。
- 期限の利益喪失条項:「支払いを〇回以上怠った場合には、残額を一括で支払う」という条項です。これにより、被害者の方は支払いが滞った場合のリスクを軽減できます。
- 清算条項:「この示談書に定める内容以外に、当事者間には一切の債権債務関係がないことを確認する」という条項です。これにより、後から追加で損害賠償を請求されることを防ぎます。
こうした専門的な条項を含む示談書を当事者だけで作成するのは困難です。弁護士が作成することで、双方にとって公平で、法的に効力のある、信頼性の高い示談書を完成させることができます。例えば、万引きのような事件であっても、示談の成否がその後の人生を大きく左右するのです。
示談金を払えないときに絶対やってはいけないNG対応
「なんとかしなければ」という焦りから取った行動が、かえって事態を悪化させてしまうことがあります。ここでは、あなたやご家族が陥りがちな典型的な失敗例と、なぜそれがNGなのかを解説します。取り返しのつかない事態を避けるために、必ず知っておいてください。
NG①:被害者への直接連絡・交渉
謝罪したいという気持ちは分かりますが、加害者であるあなたが被害者の方に直接連絡を取ることは、原則として避けるべきです。被害者の方はあなたに恐怖心や怒りを抱いている可能性が高く、直接の接触は相手の感情を逆なでし、交渉が決裂する大きな原因となります。
それだけでなく、警察や検察からは「口封じをしようとしている」「脅迫して示談を迫っている」などと疑われ、証拠隠滅や逃亡のおそれがあると判断され、逮捕・勾留されてしまうリスクさえあります。安全かつ冷静に交渉を進めるためには、必ず弁護士という客観的な第三者を介することが不可欠です。もし警察や検察から呼び出しを受けている状況であれば、なおさら慎重な対応が求められます。
NG②:支払えないのに安易に一括払いを約束する
「不起訴にしてほしい」という一心で、その場しのぎに到底支払えない金額の一括払いを約束してしまうケースがあります。これは避けるべき対応です。
約束が果たされなければ、示談は当然不成立となります。それどころか、「嘘をつかれた」ことで被害者の方の処罰感情は再燃し、不誠実であるとの印象を与えてしまうおそれがあります。一度失った信頼を取り戻すのは極めて困難です。実現不可能な約束は、しない方がはるかにましなのです。
NG③:「払えない」と開き直り、連絡を絶つ
経済的に追い詰められ、どうしようもなくなって連絡を無視したり、「お金がないから払えません」と一方的に伝えたりするのも絶対にやってはいけない対応です。
これは、被害者の方から見れば「反省の態度が全くない」「自分のことしか考えていない」と映ります。交渉の糸口は完全に断たれ、被害者の方は「刑事罰を強く望む」という意思を固めてしまうでしょう。厳しい状況でも、連絡を絶たず、解決に向けた意思を示し続けることが重要です。問題を放置しても、決して良い結果には繋がりません。

福岡フォワード法律事務所の弁護士ができること
ここまで解説してきたように、示談金を払えないという状況から不起訴処分を獲得するためには、被害者感情への深い配慮と、法的な知識に基づいた戦略的な交渉が不可欠です。私たち福岡フォワード法律事務所の弁護士は、あなたの代理人として、示談交渉や捜査機関への対応をサポートします。
被害者感情に配慮した、粘り強い分割交渉
示談金の支払いは一括が望ましいことは間違いありません。しかし、どうしても一括での支払いが難しいご依頼者様のために、私たちは粘り強く分割払いの交渉を行います。その際、私たちは単に「分割でお願いします」と伝えるだけではありません。
まず、分割払いであっても示談金を受け取っていただくことが、被害者の方にとっても損害が補填されるというメリットになることを丁寧に説明します。そして、支払いが滞った場合のペナルティ(期限の利益喪失条項など)を明記した示談書案を提示することで、分割払いであっても被害者の方が安心して合意できるよう、不安の解消に努めます。このような被害者への真摯な説明と説得を通して、当事務所では分割払いでの示談を成立させた事案が数多くあります。中には、5年、10年という長期間にわたって、誠実に支払いを続けていらっしゃるご依頼者様もおられます。
不起訴処分獲得に向けた検察官との折衝
被害者の方との示談交渉と並行して、検察官への対応も極めて重要です。たとえ分割払いでの示談が成立したとしても、その事実と意義を検察官に正しく伝えなければ、不起訴処分には繋がりません。
私たちは、成立した示談書や具体的な支払計画書を証拠として検察官に提出します。さらに、示談に至るまでの経緯や、あなたの反省の情、ご家族の監督体制などをまとめた意見書を作成・提出し、「被害回復に向けて真摯な努力を尽くしており、更生の可能性も高いため、起訴する必要はない」と強く働きかけます。事件によっては、自首に同行するなど、捜査の初期段階から有利な事情を作るための活動も行います。
ご依頼の流れと費用について
もしあなたが今、一人で悩んでいるなら、まずは私たちにご相談ください。ご依頼いただくまでの流れは以下の通りです。
- 法律相談のご予約:お電話またはお問い合わせフォームから、ご相談の日時をご予約ください。
- 弁護士との面談:事務所にお越しいただき、事件の詳しい内容やご不安な点を弁護士が直接お伺いします。
- 方針と費用の説明:お話を伺った上で、今後の弁護活動の方針と、必要となる弁護士費用(着手金・成功報酬など)について明確にご説明します。
- ご契約・弁護活動開始:ご納得いただけましたら、委任契約を締結し、直ちに弁護活動を開始します。
ご相談いただいたからといって、必ず依頼しなければならないわけではありません。「まずは話を聞いてみたい」というだけでも結構です。秘密は厳守しますので、安心してまずは法律相談をご予約ください。
まとめ
この記事では、示談金を一括で支払えないという困難な状況から、不起訴処分を目指すための具体的な方法について解説しました。
最後に、最も重要なことをお伝えします。それは、「お金がないから」と諦めてしまう前に、できることはまだたくさんあるということです。分割払いという現実的な選択肢を視野に入れ、誠意をもって被害者の方と向き合い、専門家である弁護士のサポートを受けながら戦略的に交渉を進めることで、道は開けます。
対応が遅れると、選択できる対応が限られる場合があります。あなたの未来を守るため、そして人生を前に進めるために、どうか勇気を出して、私たち専門家にご相談ください。状況に応じて必要な対応を検討し、サポートします。
元恋人のバッグにAirTagを入れたら犯罪? 2025年改正ストーカー規制法を弁護士が解説
【事例】元恋人のバッグにAirTag…これって犯罪?
「今、〇〇駅にいるよね」「昨日は△△に行っていたでしょう」
交際相手と別れたAさんのもとに、元恋人からこんな連絡が届くようになりました。なぜ、自分の居場所を知っているのだろう。言いようのない恐怖を感じたAさんは、自分の持ち物を確かめてみることにしました。すると、いつも使っているバッグの内ポケットから、見覚えのない小さな円盤状の物体が見つかったのです。それは、紛失防止タグとして知られる「AirTag」でした。
別れた相手とはいえ、自分の知らないうちに紛失防止タグを入れられ、継続的に行動を把握されていたかもしれない。そう思うと、Aさんは強い恐怖を感じました。
このような行為は、法的に許されるのでしょうか。そして、もし許されないとしたら、どのような犯罪に該当するのでしょうか。この記事では、男女間のトラブルに詳しい弁護士が、2025年に改正されたストーカー規制法を踏まえ、この問題を詳しく解説します。
結論:AirTagの無断使用はストーカー規制法違反となる可能性があります
結論から申し上げます。Aさんの事例のように、相手の承諾なくバッグなどにAirTagを忍ばせ、その位置情報を取得する行為は、ストーカー規制法違反となる可能性が極めて高いです。
これまでは、GPS機器を用いた位置情報の取得は規制対象外とされるケースもありましたが、紛失防止タグの悪用事案が増加した社会情勢を受け、法律が改正されました。2025年12月30日に施行された改正ストーカー規制法では、相手の承諾なくAirTagなどの紛失防止タグを使用して位置情報を取得する行為が、新たに「位置情報無承諾取得等」として明確に規制対象に加えられました。
この法改正により、「つきまとい等」の定義が現代のテクノロジーの実態に合わせてアップデートされ、被害者をより厚く保護することが可能になりました。
弁護士の視点
男女間のトラブルでは、相手を監視している側が「恋人なのだから当然」「浮気を確認したかっただけ」といった独自の論理で自己の行為を正当化しようとするケースが少なくありません。しかし、交際関係が終了した後はもちろん、たとえ交際中であったとしても、相手の行動を無断で把握することが当然に許されるわけではありません。
ストーカー被害で最も重要なのは、被害が深刻化する前、つまり監視されていると感じたり、執拗な連絡や待ち伏せが始まったりした初期段階で、迅速かつ適切に対応することです。初期の段階で専門家が介入することで、事態のエスカレーションを防ぎ、より穏便な解決に至る可能性が高まります。
2025年改正ストーカー規制法の重要ポイント
今回の法改正で、特に知っておくべき重要なポイントは以下の2つです。これらはいずれも2025年12月30日から施行されています。

- 紛失防止タグ等を用いた位置情報の無承諾取得の規制(2025年12月30日施行)
これまで規制が難しかった、相手の持ち物等にAirTagなどの紛失防止タグやGPS機器を取り付け、その位置情報を無断で取得する行為が「位置情報無承諾取得等」として明確に禁止されました。 - 職権による警告の創設(2025年12月30日施行)
これまでは被害者からの申出がなければ警察は「警告」を出せませんでしたが、改正後は、被害者の生命・身体に危険が及ぶおそれがあると警察が判断した場合、申出がなくても職権で加害者に警告できるようになります。これにより、DV被害者などが恐怖で申出をためらうケースでも、警察がより迅速に介入しやすくなります。
「つきまとい等」から「ストーカー行為」へ
ストーカー規制法を理解する上で、「つきまとい等」と「ストーカー行為」という2つの概念の違いを知ることが重要です。
- つきまとい等:特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、法律に列挙された行為を行うこと。なお、「位置情報無承諾取得等」は「つきまとい等」とは別に定義され、ストーカー規制法の規制対象とされています。
- ストーカー行為:同一の者に対し、「つきまとい等」又は「位置情報無承諾取得等」を反復して行うこと。
つまり、元恋人のバッグにAirTagを一度仕掛け、その位置情報を取得する行為は「位置情報無承諾取得等」に該当する可能性があり、その状態で位置情報を繰り返し確認するなどの行為を反復すれば、「ストーカー行為」という犯罪となり、刑事罰(2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金)の対象となります。「一度だけ」のつもりが、取り返しのつかない事態を招く危険性をはらんでいます。
ストーカー規制法の全体像については、ストーカー規制法の全体像で体系的に解説しています。
加害者側のよくある動機と法的な評価
AirTagなどを無断で仕掛けてしまう側には、相応の「理由」があるのかもしれません。しかし、その動機がどれだけ切実なものであっても、法的に正当化することは困難です。
「浮気の証拠集め」なら許される?
「相手が浮気しているかもしれない。その証拠を掴むためだった」という主張は、残念ながら法的に正当な理由として認められにくいと考えられます。たとえ浮気の事実があったとしても、その証拠を収集するために違法な手段を用いることは許されないのです。
これは、目的が正当であれば手段は問われない、ということにはならないという法の大原則に基づきます。探偵業者でさえ、調査対象者の車にGPSを無断で取り付ける行為はストーカー規制法違反にあたる可能性があるとされています。目的の正当性は、手段の違法性を決して正当化しません。もし浮気の事実があり、離婚慰謝料を請求したいのであれば、合法的な方法で証拠を集める必要があります。
「心配だから」という気持ちは酌量される?
「別れた後も相手のことが心配で、無事かどうかを知りたかっただけ」という感情的な動機も、残念ながら免罪符にはなりません。
相手を心配する気持ちそのものは、理解できる部分があるかもしれません。しかし、その気持ちの表現方法として、相手の同意なく行動を監視するという手段を選ぶことは、相手にとって「心配」ではなく「恐怖」でしかありません。それは相手のプライバシー権を著しく侵害し、精神的な平穏を脅かす「つきまとい等」に他ならないのです。
本当に相手を思うのであれば、相手の意思を尊重し、健全なコミュニケーションを試みるべきでしょう。一方的な監視は、愛情や心配ではなく、相手を自分の管理下に置きたいという支配欲の表れと見なされても仕方ありません。こうした行為は、時として男女間の金銭トラブルなど、別の問題に発展するケースも見受けられます。
【被害者向け】AirTagを仕掛けられた時の対処法
もし、ご自身の持ち物から不審なAirTagなどが見つかったり、元恋人から行動を監視されていると感じたりした場合は、パニックにならず、以下のステップで冷静に対処してください。

STEP1:身の安全を確保し、証拠を保全する
何よりもまず、ご自身の安全を確保することが最優先です。その上で、冷静に証拠を集めましょう。
- AirTagをすぐに捨てない:発見したAirTagは、それ自体が重要な証拠です。発見した日時、場所、状況をスマートフォンなどで写真や動画に撮影して記録してください。
- メッセージ等を保存する:相手から届いた、あなたの行動を監視していることをほのめかすようなLINEのメッセージ、メール、SNSのDMなどは、全てスクリーンショットで保存しましょう。着信履歴も同様です。
- 日記をつける:いつ、どこで、誰と、何をされたのかを時系列で記録しておくと、後で警察や弁護士に説明する際に非常に役立ちます。
これらの客観的な証拠は、あなたの主張を裏付ける重要な資料となります。それは、AIによる性的画像の生成といった新しい形の被害においても同様に重要です。
STEP2:警察に相談する(#9110の活用)
ある程度の証拠が揃ったら、警察に相談しましょう。身に危険が迫っている緊急の場合は迷わず110番ですが、具体的な相談については、警察相談専用電話「#9110」にかけるか、最寄りの警察署の生活安全課を訪ねてください。
警察に相談することで、ストーカー規制法に基づき、加害者に対して「警告」や「禁止命令」といった行政上の措置を講じてもらえる可能性があります。公的な機関が間に入ることで、相手の行為を抑止する効果が期待できます。
STEP3:弁護士に相談し、法的措置を検討する
警察への相談と並行して、あるいはその前に、弁護士へ相談することも極めて有効な手段です。
弁護士に依頼するメリットは多岐にわたります。
- 直接の接触を断てる:弁護士が代理人として相手方に受任通知を送付することで、「今後の連絡は全て弁護士を通すように」と伝え、あなたへの直接の連絡を止めさせることができます。
- 多様な法的手段を講じられる:警察の「警告」や「禁止命令」とは別に、裁判所に対して接近禁止の仮処分を申し立てたり、精神的苦痛に対する慰謝料請求(民事訴訟)を行ったりすることが可能です。
- 相手との完全な関係遮断を目指せる:警察の対応はあくまでストーカー行為を止めさせることが主目的ですが、弁護士であれば、慰謝料請求などを通じて相手に法的な責任を取らせ、今後の接触を一切断つという内容の示談交渉も可能です。
特に、相手との関係を完全に清算し、金銭的な解決も含めて問題を終結させたい場合には、弁護士への相談が不可欠です。それは、独身と偽られて交際したケースなど、他の男女トラブルにおいても同様です。
【加害者向け】ストーカー行為をしてしまった時の対処法
「もしかしたら、自分の行為がストーカーに当たるかもしれない…」と不安に感じている方もいらっしゃるかもしれません。感情に任せて行動をエスカレートさせることは、事態を悪化させるだけです。刑事事件化を避け、問題を解決するために、今すぐ以下の行動を取ってください。
STEP1:直ちに全ての連絡・監視行為をやめる
最も重要で、最初に行うべきことは、相手への一切の連絡(電話、LINE、SNSなど全て)と、AirTagなどによる監視行為を直ちに、完全にやめることです。これ以上行為を続けると「反復性」があると見なされ、より罪の重い「ストーカー行為」として処罰されるリスクが格段に高まります。まずは冷静になり、ご自身の行動がもたらす法的な不利益を認識してください。
STEP2:弁護士に相談し、相手方との交渉を依頼する
一度こじれてしまった関係を、当事者だけで修復するのは極めて困難です。感情的な対立が激化し、さらなるトラブルを招きかねません。速やかに弁護士に相談し、代理人として相手方との交渉を依頼してください。
弁護士が間に入ることで、冷静な話し合いの場を設けることが可能になります。弁護士を通じて、相手の被害感情に配慮した真摯な謝罪を行い、示談交渉を進めることで、刑事事件化を回避できる可能性が生まれます。特に、すでに警察から呼び出しを受けたり、相手方に弁護士がついたりした場合は、個人で対応するのは非常に危険です。専門家を代理人に立てることが、今後の不利益を避けるために重要であり、前科がつく事態を避けるためにも重要な対応と言えます。

まとめ:ストーカー問題は一人で悩まず弁護士へ
この記事では、元恋人のバッグにAirTagを無断で入れる行為が、2025年改正のストーカー規制法によって明確に規制対象となることを解説しました。
重要なポイントを改めて確認しましょう。
- AirTagなどを用いた無承諾の位置情報取得は「つきまとい等」に該当します。
- これらの行為を反復すれば「ストーカー行為」という犯罪になります。
- 「浮気調査」や「心配」といった動機は、法的に正当化することは困難です。
- 被害に遭った場合は、安全確保、証拠保全の上、速やかに警察や弁護士に相談することが重要です。
- 加害者の立場になってしまった場合も、直ちに行為をやめ、弁護士に相談することで、事態の悪化を防げる可能性があります。
ストーカー問題は、当事者間の感情的な対立が深く、一人で解決することは極めて困難です。被害者にとっても、加害者にとっても、法的な知識と冷静な交渉力を持つ弁護士という第三者を介することが、双方にとって最善の解決策となるケースがほとんどです。
福岡フォワード法律事務所は、こうした男女間の複雑な問題の解決に力を入れています。もしあなたがストーカー問題で悩んでいるなら、一人で抱え込まず、どうか勇気を出してご相談ください。当事務所は、状況に応じた解決方針を検討し、必要な対応をサポートします。
AI性的画像の慰謝料は?ディープフェイク被害の解決法
「AIで作った裸の画像」は不倫より心に深い傷を残すかもしれない
「元カレが、私の顔を使って裸の画像をAIで作成し、SNSでばらまいているかもしれない」
「知らない間に、自分のわいせつな画像がネットに出回っている」
もしあなたが今、このような被害に遭った場合、強い不安や怒り、羞恥心を感じることがあります。これは単なる法律の解説ではありません。実際には存在しない性的画像によって人格的利益が侵害される問題について、具体的な対応方法を整理するものです。
私はこれまで、不倫慰謝料をはじめとする数多くの男女トラブルを扱ってきました。しかし、AIによる性的画像の生成、いわゆる「性的ディープフェイク」がもたらす精神的苦痛は、従来のトラブルとは異質な、そして極めて深刻な側面を持っています。
実際に撮影されたリベンジポルノとは違い、AIが生成した画像は「事実無根」です。しかし、その画像を見た第三者は、それを本物だと信じてしまうかもしれません。実際には存在しない画像であることを説明し続けなければならない状況は、被害者に大きな精神的負担を与えます。この記事では、その深い傷を癒し、加害者に正当な責任を追及するための法的手段を、一つひとつ丁寧に解説していきます。
弁護士の見解:問題の本質は「AI」ではなく「人格権の侵害」にある
性的ディープフェイクの問題を考えるとき、私たちはしばしば「AIだから違法なのか?」という問いに直面します。しかし、問題の本質は、新しい技術そのものではなく、その技術が従来から存在する権利侵害をいかに容易にし、深刻化させたかという点にあります。
これまでも、他人の写真を無断で加工し、性的な印象を与える画像を作成・拡散する行為は存在しました。生成AIの登場によって、全く新しい権利侵害の概念が生まれたわけではありません。
しかし、生成AIは決定的な変化をもたらしました。それは、かつては専門的な技術や多大な時間を要した悪質な行為が、今や誰でも、ごく短時間で、容易に実行できるようになったという事実です。
特に深刻なのは、本人が生涯で一度も撮影したことのない性的画像を、AIがいとも簡単に「本人があたかもそのような姿であるかのような画像」として生成できてしまう点です。
これは被害者にとって絶望的な状況を生み出します。「そんな写真は撮ったことがない」「そのような場所には行っていない」とどれだけ叫んでも、インターネット上には、まるで本人の写真であるかのような画像が拡散し続けてしまうのです。
「AIが作った架空の画像なのだから実害はない」という主張は、断じて適切ではありません。第三者がその画像を本人のものだと信じれば、その人の社会的評価や人格的利益は深刻なダメージを受けます。そして一度SNSなどで拡散されてしまえば、その画像をすべて確認し、削除することは容易ではありません。
AIはあくまで道具です。包丁という道具自体に善悪がないのと同じように、AIそのものが違法なのではありません。問われるべきは、その道具を使い、誰の、どの権利を、いかにして侵害したのか、という点に尽きます。
だからこそ、私たち法律実務家は、「AIを使ったから違法か」という二者択一で思考を停止するのではなく、従来から保護されてきた名誉、プライバシー、肖像といった人格的利益に対する侵害が、AIによってどう変質し、どこまで深刻化しているのか、という視点からこの問題と向き合う必要があるのです。

性的ディープフェイクで問える2つの法的責任
AIによる性的画像の被害に遭ったとき、加害者に対して追及できる法的責任は、大きく分けて「民事責任」と「刑事責任」の2つがあります。あなたが何を最も望むのかによって、取るべき対応は変わってきます。まずは全体像を把握しましょう。
民事責任:慰謝料請求と画像の削除
民事責任の追及は、主に「お金」と「画像の削除」を求める手続きです。加害者の行為は、あなたの名誉やプライバシー、肖像権などを侵害する「不法行為」にあたります。これによってあなたが受けた精神的苦痛に対して、慰謝料というかたちで金銭的な賠償を請求することができます。
さらに、金銭的な賠償だけでなく、現在インターネット上で拡散されている画像の削除を求める「差止請求」も可能です。被害の拡大を防ぎ、平穏な生活を取り戻すために、慰謝料請求と画像の削除は、民事手続きにおける2つの重要なゴールとなります。
刑事責任:加害者に科される可能性のある罰則
刑事責任の追及は、加害者を犯罪者として罰することを求める手続きです。性的ディープフェイクの作成・拡散は、以下のような犯罪に該当する可能性があります。
- 名誉毀損罪:公然と事実を摘示し、人の社会的評価を低下させる行為。
- わいせつ物頒布罪:わいせつな画像を不特定多数の人が閲覧できる状態にする行為。
- 児童ポルノ禁止法違反:被害者が18歳未満の場合、児童ポルノの提供や製造にあたる可能性があります。
これらの罪で有罪となれば、加害者には懲役刑や罰金刑が科されます。刑事責任の追及を求める場合は、警察に被害を相談・申告し、事案によっては告訴状の提出も検討します。民事責任の追及とは目的も手続きも異なるため、どちらを優先するのか、あるいは両方を進めるのかを検討することが重要です。

AI性的画像の慰謝料は請求できる?判断のポイント
「本物の写真ではないのだから、慰謝料は請求できないのでは?」
多くの方が抱くこの疑問に対する答えは、「NO」です。たとえAIによって生成された架空の画像であっても、それによってあなたの人格権が侵害されたと認められれば、慰謝料の請求は可能です。
裁判所が慰謝料の額を判断する際には、様々な要素が総合的に考慮されます。具体的には、以下のような点がポイントとなります。
- 画像の拡散範囲と期間:どれだけ多くの人の目に触れ、どのくらいの期間公開されていたか。
- 画像のわいせつ性の程度:画像の内容がどれほど露骨で悪質か。
- 加害行為の悪質性:元交際相手による腹いせなど、動機は卑劣ではないか。
- 被害者が受けた精神的苦痛の大きさ:被害によって仕事や日常生活にどのような支障が出たか。
- 被害者の社会的地位:社会的立場のある人物であれば、損害がより大きいと判断される傾向があります。
慰謝料の算定方法に決まった式はありませんが、これらの要素を丁寧に主張・立証することで、適切な賠償額を求めていくことになります。
この問題は社会的な関心も高く、2026年8月には、法務省が設置した検討会が「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会取りまとめ報告書―生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―」を公表するなど、法的整理に向けた議論も進んでいます。
参照:法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書の公表について」
被害に遭ったらすぐに実行すべき3つのステップ
今、パニック状態で何から手をつけていいか分からないかもしれません。しかし、どうか冷静さを失わないでください。あなたの未来を取り戻すために、今すぐ実行すべきことを3つのステップに分けて具体的に解説します。適切な手順で対応することで、被害回復や責任追及につながる可能性があります。
ステップ1:証拠を確保する(スクリーンショットとURL)
何よりも先に、そして絶対に行わなければならないのが「証拠の確保」です。怒りや羞恥心から「一刻も早く消してほしい」と思うのは当然ですが、その気持ちを少しだけ抑えて、まずは証拠を残してください。これがなければ、後のすべての手続きが困難になります。
具体的には、以下の情報を保存してください。
- スクリーンショット:問題の画像が投稿されている画面全体を撮影します。その際、URL、投稿日時、投稿者のアカウント名(ID)が必ず写るようにしてください。
- URLの保存:投稿ページのURLをコピーして、メモ帳などに貼り付けて保存します。
- 画面録画:可能であれば、一連の投稿やプロフィールページなどを動画で録画しておくと、より強力な証拠となります。
これらの証拠は、後の削除申請や加害者を特定する手続き、そして慰謝料を請求する裁判において、あなたの主張を裏付ける生命線となります。
ステップ2:プラットフォームに削除を申請する
証拠を確保したら、次に画像の削除を目指します。X(旧Twitter)やInstagram、Facebookなどの主要なSNSやプラットフォームには、プライバシー侵害や性的コンテンツに関する規約があり、違反コンテンツを報告するための専用フォームが設けられています。
申請を行う際は、単に「削除してください」と伝えるだけでなく、「本人の同意なく、顔写真を無断で使用してAIによって生成された、事実無根の性的画像である」という点を具体的に、かつ明確に記載することが重要です。
2025年4月に施行された「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」により、一定規模以上のプラットフォーム事業者には、削除申請に対して迅速かつ誠実に対応することが求められるようになりました。諦めずに、まずはプラットフォーム事業者に直接削除を働きかけてみましょう。

ステップ3:発信者情報開示請求で投稿者を特定する
「一体、誰がこんなひどいことを…」
匿名のアカウントによる投稿の場合、投稿者が分からない状況は、被害者の不安をさらに大きくすることがあります。その犯人を突き止めるための法的手続きが「発信者情報開示請求」です。
これは弁護士の専門領域であり、非常に複雑な手続きを伴います。大まかな流れは以下の通りです。
- SNS事業者(例:X社)に対し、投稿に使われたIPアドレスやタイムスタンプなどの開示を求める。
- 開示されたIPアドレスから、犯人が利用したインターネットプロバイダ(例:NTT、ソフトバンクなど)を特定する。
- そのプロバイダに対し、契約者の氏名・住所・電話番号などの開示を求める。
この手続きを経て、初めて投稿者の身元が判明します。しかし、一つだけ注意すべきは「時間との勝負」であるという点です。プロバイダが通信ログを保存している期間は、一般的に3ヶ月から6ヶ月程度とされています。この期間を過ぎてしまうと、犯人を特定する手がかりは永久に失われてしまいます。
もしあなたが加害者に責任を追及したいと少しでも考えているなら、一刻も早く行動を起こす必要があります。より詳しい手順については、ネットの誹謗中傷に関する解説記事もご覧ください。
性的ディープフェイク問題は弁護士にご相談ください
ここまでお読みいただき、被害回復までの道のりが決して平坦ではないことを感じたかもしれません。証拠の確保、プラットフォームとの交渉、そして発信者情報開示請求という複雑な法的手続。これらの対応を精神的負担を抱えたまま一人で進めることは、容易ではありません。
弁護士に依頼する最大のメリットは、これらすべてのプロセスを、あなたの代理人として遂行できることです。法的な手続きを専門家に任せることで、あなたは精神的な負担から解放され、心の平穏を取り戻すことに専念できます。
福岡フォワード法律事務所は、男女トラブルや刑事事件の解決に豊富な実績があります。事務所理念に掲げる「攻めの弁護」の姿勢で、あなたの尊厳を踏みにじった加害者に対し、断固として法的責任を追及します。
一人で悩まないでください。現在の状況に不安を感じている場合でも、事案に応じて取り得る対応を整理できます。まずは法律相談の場で、あなたの状況をお聞かせください。私たちが、あなたが前に進むための一歩を全力でサポートします。
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