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加害者が示談に応じなくても、泣き寝入りする必要はありません
暴行、盗撮、誹謗中傷…、心と身体に深い傷を負わされたにもかかわらず、加害者が謝罪もせず、示談にも応じない。その不誠実な態度に、強い憤りや無力感を覚えていらっしゃるのではないでしょうか。「このままでは泣き寝入りするしかないのか」と、不安を感じている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、どうか諦めないでください。加害者が示談に応じなくても、あなたが受けた被害に対する損害賠償を請求する権利が消えることは決してありません。
そもそも示談とは、あくまで当事者間の話し合いによる解決手段の一つに過ぎません。加害者が刑事罰を受けるかどうかを決める「刑事手続き」と、あなたが受けた損害の回復を目指す「民事の損害賠償請求」は、全く別の手続きです。示談が決裂したからといって、民事上の請求権がなくなるわけではないのです。
この記事では、不誠実な加害者に対して、法的な手続きを通じて正当な賠償を求めるための具体的なステップを、福岡市で刑事事件に強い福岡フォワード法律事務所の代表弁護士が分かりやすく解説します。今後の対応を検討する際の参考としてご覧ください。
まず冷静に。請求の準備と証拠確保が最優先
加害者の態度に感情的になるのは当然ですが、具体的な行動を起こす前に、まずやるべき最も重要なことがあります。それは、冷静になって「証拠」を確保し、請求の根拠を固めることです。法的な手続き、特に裁判では、客観的な証拠が何よりも重要になります。
例えば、以下のようなものが有効な証拠となり得ます。
- 暴行・傷害事件:診断書、怪我の写真、治療費の領収書、防犯カメラの映像
- 盗撮・性被害:犯行を記録したデータ、目撃者の証言、精神科の診断書
- 名誉毀損・誹謗中傷:問題の書き込みがあるウェブページやSNSのスクリーンショット、URL
- 器物損壊:壊された物の写真、修理費用の見積書や領収書
加害者との直接のやり取り(メール、LINE、通話の録音など)も証拠になる可能性がありますが、感情的な応酬は避けましょう。後の手続きで不利に働く可能性もあるため、冷静な対応が肝心です。客観的な証拠は、あなたの主張を裏付ける重要な資料となります。

損害額を証明する資料を揃える
損害賠償を請求するためには、「具体的にいくらの損害を受けたのか」を客観的な資料で証明する必要があります。請求する損害項目ごとに、以下のような資料を丁寧に集めていきましょう。
- 治療関係費:病院の領収書、薬局のレシート、通院にかかった交通費の記録(日付、区間、金額)
- 休業損害:勤務先に発行してもらう休業損害証明書、事故前3ヶ月分の給与明細、源泉徴収票
- 慰謝料:精神的苦痛に対する賠償です。明確な金額を示す資料はありませんが、入通院期間がわかる診断書や、被害によって受けた精神的影響(PTSDなど)を証明する医師の診断書などが算定の根拠となります。
- 物的損害:壊れた物の修理見積書、同等品を購入した場合の領収書など
特に慰謝料については、過去の裁判例などからある程度の相場が存在します。感情的に法外な金額を請求するのではなく、客観的根拠に基づいた適正な損害額を算出することが、最終的な回収の可能性を高める上で非常に重要です。
被害届や刑事告訴は済んでいますか?
警察に被害を申告する「刑事手続き」は、民事の損害賠償請求においても大きな意味を持ちます。
被害届の提出や刑事告訴は、警察による捜査開始のきっかけになります。その過程で、警察が客観的な証拠を収集・保全してくれたり、加害者を特定してくれたりすることがあります。これらの捜査資料は、後の民事訴訟で有力な証拠となる可能性があります。
また、加害者側からすれば、刑事罰を受ける可能性が出てくるため、そのプレッシャーから態度を改め、民事の損害賠償の支払いに応じてくるケースも少なくありません。
まだ警察に相談されていない場合は、速やかに行動することをお勧めします。民事と刑事、両面からアプローチすることが、問題解決への近道となる場合があります。例えば、ストーカー被害のように、身の安全を確保するためにも刑事手続きは重要です。
【ステップ1】内容証明郵便で「公式に」請求する
証拠と損害額の資料が揃ったら、次に、具体的な手続きに進みます。その第一歩が「内容証明郵便」の送付です。
これは単なる手紙ではありません。「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が公的に証明してくれるサービスです。これにより、あなたの請求の意思を「公式な記録」として残すことができます。
内容証明郵便を送る目的は、主に以下の3つです。
- 加害者への心理的プレッシャー:法的な手続きを本気で考えているという強い意志を示し、支払いを促します。弁護士の名前で送付すると、その効果はさらに高まります。
- 時効完成の猶予:内容証明を送付することで、損害賠償請求権の消滅時効の完成を6ヶ月間猶予させることができます。その間に訴訟の準備を進めることが可能になります。
- 裁判上の証拠:万が一裁判になった場合、「話し合いでの解決を試みたが、相手が応じなかった」という事実を証明する証拠の一つになります。
ただし、内容証明郵便自体に支払いを強制する法的な効力はありません。あくまで「最終通告」であり、相手の出方を見るための手段と位置づけられます。
内容証明を無視された場合の訴訟の検討
もし内容証明郵便を送っても加害者が無視する、あるいは支払いを明確に拒否してきた場合、残念ながら当事者間の話し合いによる解決は困難と言わざるを得ません。この時点で、「民事訴訟」へ進むことを具体的に検討する必要があります。
「示談に応じない」と聞くと、加害者が一切お金を払う気がないように思われるかもしれません。しかし、私がこれまで扱ってきた案件の中には、請求額の根拠が分からなかったり、本人なりの言い分があったりと、様々な理由で交渉が停滞しているケースもありました。まずは「なぜ応じないのか」を冷静に見極めることが重要です。
しかし、内容証明という最終通告すら無視するということは、支払いの意思がない可能性が極めて高いと判断せざるを得ません。ここからは、裁判所という中立公正な第三者の判断を仰ぎ、あなたの正当な権利を実現するための最終手段に移ります。ここからは、債権回収のための法的手続きを具体的に検討します。
【ステップ2】民事訴訟で「支払義務」を確定させる
「裁判」と聞くと、時間も費用もかかり、精神的にも大変そうだというイメージがあるかもしれません。しかし、民事訴訟は、不誠実な相手に対してあなたの権利を実現するための、法律で認められた正当な手続きです。
民事訴訟の最大の目的は、裁判官に証拠を客観的に判断してもらい、「加害者には、被害者であるあなたに対して〇〇円を支払う義務がある」という公的なお墨付き(判決)を得ることにあります。この判決は「債務名義」と呼ばれ、後の強制執行の際に不可欠なものとなります。
訴訟の大まかな流れは以下の通りです。
- 訴状の提出:裁判所に訴状と証拠を提出します。
- 口頭弁論:月に1回程度のペースで、裁判所で互いの主張を繰り返します。
- 尋問:必要に応じて、当事者や証人への尋問が行われます。
- 判決:裁判官が最終的な判断を下します。
手続きは数ヶ月から1年以上かかることもありますが、弁護士に依頼すれば、書類作成や裁判所への出廷など、手続きの大部分を任せることができます。近年では民事訴訟のデジタル化も進み、手続きの負担も軽減されつつあります。

【ステップ3】判決が出ても支払わない場合の最終手段
無事に勝訴判決を得られたとしても、残念ながらそれだけではお金が自動的に振り込まれるわけではありません。判決とは、あくまで「強制的に損害賠償を回収する権利」を得たという段階に過ぎないのです。
私が損害賠償請求のご相談を受ける際には、「裁判で勝てるか」という点だけでなく、「勝った場合に、実際に回収できる見込みはどのくらいあるか」という点を常に意識しています。判決を得ることは通過点であり、実際に賠償金があなたの手元に渡るまでが「被害回復」だと考えているからです。
判決後も加害者が支払いに応じない場合、いよいよ最終手段である「強制執行」の手続きに進むことになります。これは、国家権力によって加害者の財産を差し押さえ、そこから強制的に支払いを受ける手続きです。
強制執行の前に検討すべき「財産調査」
強制執行を実効的に進めるためには、財産調査が重要です。なぜなら、差し押さえるべき財産(どの銀行のどの支店に預金があるか、どこで働いているかなど)は、被害者側で特定しなければならないからです。
しかし、相手の財産をどうやって調べればよいのでしょうか。弁護士や裁判所を通じて、相手の財産を調査する方法があります。
- 弁護士会照会制度:弁護士が所属する弁護士会を通じて、企業や団体に必要な情報を照会する制度です。例えば、携帯電話番号から契約者情報を割り出し、銀行口座を特定する糸口を探すことなどが考えられます。
- 財産開示手続:裁判所に相手を呼び出し、自身の財産状況について陳述させる手続きです。
- 第三者からの情報取得手続:2020年の民事執行法改正で導入された手続きです。裁判所を通じて、金融機関に預貯金口座等の情報提供を求めることができます。また、養育費等の扶養義務に係る請求権や、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権など一定の場合には、市町村や年金機構に勤務先情報の提供を求められることがあります。
これらの制度を活用することで、以前よりも格段に財産調査がしやすくなり、回収の可能性が高まっています。
給与・預金・不動産…何を差し押さえるか
財産調査によって差し押さえるべき財産が判明したら、いよいよ強制執行の申立てを行います。対象となる財産によって、いくつかの種類があります。
- 給与差押え:最も効果的な手段の一つです。裁判所から加害者の勤務先へ通知が行き、給料の一部(原則として手取り額の4分の1まで)が、完済まで毎月あなたに直接支払われるようになります。加害者にとっては、会社に事情を知られるという大きなプレッシャーにもなります。より詳しい給与差押えの上限額については別の記事で解説しています。
- 預金差押え:銀行名と支店名が特定できれば、その口座を差し押さえることができます。裁判所からの通知が銀行に届いた時点での口座残高から、請求額を回収します。
- 不動産・自動車などの差押え:これらは最終的に競売にかけられ、その売却代金から支払いを受けることになります。ただし、手続きが複雑で時間もかかるため、まずは給与や預金を狙うのが一般的です。
どの財産を、どの順番で差し押さえるか。状況に応じた戦略を立てることが、回収を成功させる上で重要になります。
加害者に支払い能力がない…費用倒れのリスクも直視する
一方で、回収できないリスクもあります。それは、時間と費用をかけて裁判で勝訴したとしても、加害者に差し押さえるべき財産が全くない「無資力」の場合、残念ながら回収ができないというリスクです。弁護士費用や裁判費用だけがかかってしまう「費用倒れ」の可能性は、ゼロではありません。
しかし、だからといってすぐに諦める必要はありません。私たち弁護士は、ご依頼を受ける際に、まず回収の可能性があるかどうかを見極めることから始めます。
例えば、加害者の勤務先が分かっているか、持ち家はあるか、どのような生活をしているかといった情報から、ある程度の財産状況を推測し、費用対効果を冷静に分析します。十分な見通しがないまま訴訟へ進むのではなく、勝訴後の回収可能性も踏まえて、現実的な対応方針を検討します。もし回収の可能性に不安があるなら、一度回収可能性を相談してみることをお勧めします。あなたの状況に合わせた最適な解決策を一緒に考えましょう。

被害者の方が絶対にやってはいけないNG行動
加害者に対する正当な怒りの感情が、かえってご自身の立場を不利にしてしまう行動につながることがあります。どんなに腹が立っても、以下の行動は絶対に避けてください。
被害者の方が加害者に強い怒りを抱くのは当然のことです。しかし、その怒りをそのまま加害者への直接的な連絡やSNSでの公開という形にしてしまうと、問題を複雑にし、解決を遠ざけてしまうことがあります。弁護士は、あなたの感情を否定するのではなく、その感情とは別に、「どうすれば最も現実的に被害を回復できるのか」を一緒に考え、法に則った対応方法を示す役割を担っています。
- 自宅や職場への執拗な連絡・押しかけ:ストーカー規制法や威力業務妨害罪に問われる可能性があります。
- SNSなどでの個人情報暴露や誹謗中傷:ネットの誹謗中傷は、名誉毀損罪やプライバシー侵害となり、逆にあなたが損害賠償を請求される立場になりかねません。
- 法的な根拠なく高圧的に支払いを迫る:「支払わないとどうなるか分かっているのか」といった言動は、恐喝罪とみなされる危険性があります。
これらの行動は、民事訴訟で裁判官の心証に影響する可能性があるだけでなく、内容によっては、あなた自身が法的責任を問われるおそれがあります。被害回復は、法的な手続きに沿って進めることが重要です。
示談に応じない加害者への対応は、弁護士にご相談ください
加害者が示談に応じない場合、被害者の方がたった一人で戦うには、法的な知識や手続きの面で、あまりにも負担が大きすぎます。
内容証明郵便の作成から、訴訟の提起、そして勝訴判決後の財産調査と強制執行まで。この一連の流れを戦略的に、そして粘り強く進めていくには、専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
弁護士に依頼するメリットは、主に以下の3点です。
- 精神的・時間的負担の軽減:不誠実な加害者と直接やり取りする必要がなくなり、煩雑な手続きも全て任せられます。
- 法的に有利な手続きの選択:あなたの状況に合わせて、訴訟、強制執行、財産調査といった手段を的確に選択し、実行します。
- 回収可能性を踏まえた対応:専門的な知識と経験をもとに財産調査や強制執行の方法を検討し、回収可能性を踏まえて対応します。
福岡フォワード法律事務所は、困難な状況に置かれた被害者の方の事情を丁寧に伺い、事案に応じた法的対応を検討しています。不誠実な加害者への対応に、一人で悩み、心をすり減らす必要はありません。まずは、あなたの状況をお聞かせください。今後の対応について、法的な観点からサポートします。
詳しい法律相談についての流れもご覧いただけます。
