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貞操権侵害の慰謝料はいくらくらいか
貞操権侵害による慰謝料の相場は、50万円~500万円程度と、かなりの幅があります。なぜこんなに幅があるかというと、裁判所は、事案の個別事情をすべて考慮して判決を下すからです(同じ事案は一つとしてありません)。
すなわち、裁判所は、交際に至った経緯、交際内容、交際期間、相手が言った嘘の内容などのたくさんの要素を総合考慮して慰謝料の金額を決定しています。
また、貞操権侵害が成立しているかどうかが微妙な事案もあり、50万円を下回る金額で和解に至るケースもあります。
① 交際に至った経緯
交際にまで至る段階で、当然、相手が既婚であるのかどうかということは話題になります。かりに話題にならなかったとしても、既婚者であれば、「私は既婚者です」と正直に話すのが、相手への礼儀というものでしょう。この点を隠して「未婚です」などと嘘をつくと、慰謝料の発生や金額に影響を与えます。
また、相手とどうやって出会ったのかも重要です。私は、Tinderで出会ったのか、ペアーズで出会ったのか、結婚相談所で出会ったのか、によっても変わってくると思います。
相手と出会ったコンテンツが、遊び目的の軽い出会い系アプリなのか、真剣に結婚を考えている人が利用するアプリ(既婚者はそもそも利用禁止と規約で定められていたりする)なのかによっても、結婚への期待の度合い(肉体関係を許すかどうかの意思決定)は変わりうるからです。
② 交際期間
交際期間が長くなればなるほど慰謝料の金額は高額になりがちです。つまり、交際期間が長くなると、それだけ相手も「この人と結婚できるのではないか」と期待しますし、結果的には結婚せずに、相手の大事な時間を奪うわけですから、与えるダメージ(損害)も大きいと考えるわけです。
③ 肉体関係の回数
当然、肉体関係(性交渉)の回数が1回だけであるより、何回も何十回もあったほうが、それだけ性的自由の意思決定を侵害する回数が増えるわけですから、慰謝料の金額は大きくなります。
④ 妊娠・中絶
あなたが妊娠・中絶をした場合には、慰謝料は高額になる可能性があります。妊娠・中絶は精神的にも肉体的にもかなりの負担がかかるため、それらの経験がない場合よりも慰謝料は高額になります。この場合は、中絶費用や通院費用などの実費は別途請求すべきでしょう。
貞操権侵害で慰謝料500万円が認められた事例
東京地裁平成19年8月29日判決は、以下のように述べて、貞操権侵害ではかなり高額な500万円もの慰謝料を認めました。
「被告は、原告に対し、自己が既婚者であることを一切告げることなく、将来の結婚を約束した上で、性的関係を伴う交際を長期間続け、2度の妊娠中絶を経て、原告が被告の子を出産するや、Aを介して、原告と別れることを画策し、原告から認知請求訴訟を提起されてはじめて子の認知をするに至ったものであり、原告は、被告が独身であり、いずれ被告と婚姻できるものと信じて、20代後半から30代にかけての女性としての貴重な時期を被告のために捧げた上、被告の子を出産するに至ったものといえるのであって、被告が既婚者であることを秘して原告と性的関係を伴う交際を長期間継続したことは、被告との将来の婚姻を信じて被告との交際を続けた原告に対する関係で、人格権侵害の継続的不法行為を構成するものといわざるを得ない。」