元恋人のバッグにAirTagを入れたら犯罪? 2025年改正ストーカー規制法を弁護士が解説

【事例】元恋人のバッグにAirTag…これって犯罪?

「今、〇〇駅にいるよね」「昨日は△△に行っていたでしょう」

交際相手と別れたAさんのもとに、元恋人からこんな連絡が届くようになりました。なぜ、自分の居場所を知っているのだろう。言いようのない恐怖を感じたAさんは、自分の持ち物を確かめてみることにしました。すると、いつも使っているバッグの内ポケットから、見覚えのない小さな円盤状の物体が見つかったのです。それは、紛失防止タグとして知られる「AirTag」でした。

別れた相手とはいえ、自分の知らないうちに紛失防止タグを入れられ、継続的に行動を把握されていたかもしれない。そう思うと、Aさんは強い恐怖を感じました。

このような行為は、法的に許されるのでしょうか。そして、もし許されないとしたら、どのような犯罪に該当するのでしょうか。この記事では、男女間のトラブルに詳しい弁護士が、2025年に改正されたストーカー規制法を踏まえ、この問題を詳しく解説します。

結論:AirTagの無断使用はストーカー規制法違反となる可能性があります

結論から申し上げます。Aさんの事例のように、相手の承諾なくバッグなどにAirTagを忍ばせ、その位置情報を取得する行為は、ストーカー規制法違反となる可能性が極めて高いです。

これまでは、GPS機器を用いた位置情報の取得は規制対象外とされるケースもありましたが、紛失防止タグの悪用事案が増加した社会情勢を受け、法律が改正されました。2025年12月30日に施行された改正ストーカー規制法では、相手の承諾なくAirTagなどの紛失防止タグを使用して位置情報を取得する行為が、新たに「位置情報無承諾取得等」として明確に規制対象に加えられました。

この法改正により、「つきまとい等」の定義が現代のテクノロジーの実態に合わせてアップデートされ、被害者をより厚く保護することが可能になりました。

弁護士の視点

男女間のトラブルでは、相手を監視している側が「恋人なのだから当然」「浮気を確認したかっただけ」といった独自の論理で自己の行為を正当化しようとするケースが少なくありません。しかし、交際関係が終了した後はもちろん、たとえ交際中であったとしても、相手の行動を無断で把握することが当然に許されるわけではありません。

ストーカー被害で最も重要なのは、被害が深刻化する前、つまり監視されていると感じたり、執拗な連絡や待ち伏せが始まったりした初期段階で、迅速かつ適切に対応することです。初期の段階で専門家が介入することで、事態のエスカレーションを防ぎ、より穏便な解決に至る可能性が高まります。

2025年改正ストーカー規制法の重要ポイント

今回の法改正で、特に知っておくべき重要なポイントは以下の2つです。これらはいずれも2025年12月30日から施行されています。

2025年改正ストーカー規制法の2つの重要ポイントを図解したインフォグラフィック。左側にAirTag等の無断使用の禁止、右側に警察による職権での警告創設が示されている。
  1. 紛失防止タグ等を用いた位置情報の無承諾取得の規制(2025年12月30日施行)
    これまで規制が難しかった、相手の持ち物等にAirTagなどの紛失防止タグやGPS機器を取り付け、その位置情報を無断で取得する行為が「位置情報無承諾取得等」として明確に禁止されました。
  2. 職権による警告の創設(2025年12月30日施行)
    これまでは被害者からの申出がなければ警察は「警告」を出せませんでしたが、改正後は、被害者の生命・身体に危険が及ぶおそれがあると警察が判断した場合、申出がなくても職権で加害者に警告できるようになります。これにより、DV被害者などが恐怖で申出をためらうケースでも、警察がより迅速に介入しやすくなります。

「つきまとい等」から「ストーカー行為」へ

ストーカー規制法を理解する上で、「つきまとい等」と「ストーカー行為」という2つの概念の違いを知ることが重要です。

  • つきまとい等:特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、法律に列挙された行為を行うこと。なお、「位置情報無承諾取得等」は「つきまとい等」とは別に定義され、ストーカー規制法の規制対象とされています。
  • ストーカー行為:同一の者に対し、「つきまとい等」又は「位置情報無承諾取得等」を反復して行うこと。

つまり、元恋人のバッグにAirTagを一度仕掛け、その位置情報を取得する行為は「位置情報無承諾取得等」に該当する可能性があり、その状態で位置情報を繰り返し確認するなどの行為を反復すれば、「ストーカー行為」という犯罪となり、刑事罰(2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金)の対象となります。「一度だけ」のつもりが、取り返しのつかない事態を招く危険性をはらんでいます。

ストーカー規制法の全体像については、ストーカー規制法の全体像で体系的に解説しています。

加害者側のよくある動機と法的な評価

AirTagなどを無断で仕掛けてしまう側には、相応の「理由」があるのかもしれません。しかし、その動機がどれだけ切実なものであっても、法的に正当化することは困難です。

「浮気の証拠集め」なら許される?

「相手が浮気しているかもしれない。その証拠を掴むためだった」という主張は、残念ながら法的に正当な理由として認められにくいと考えられます。たとえ浮気の事実があったとしても、その証拠を収集するために違法な手段を用いることは許されないのです。

これは、目的が正当であれば手段は問われない、ということにはならないという法の大原則に基づきます。探偵業者でさえ、調査対象者の車にGPSを無断で取り付ける行為はストーカー規制法違反にあたる可能性があるとされています。目的の正当性は、手段の違法性を決して正当化しません。もし浮気の事実があり、離婚慰謝料を請求したいのであれば、合法的な方法で証拠を集める必要があります。

「心配だから」という気持ちは酌量される?

「別れた後も相手のことが心配で、無事かどうかを知りたかっただけ」という感情的な動機も、残念ながら免罪符にはなりません。

相手を心配する気持ちそのものは、理解できる部分があるかもしれません。しかし、その気持ちの表現方法として、相手の同意なく行動を監視するという手段を選ぶことは、相手にとって「心配」ではなく「恐怖」でしかありません。それは相手のプライバシー権を著しく侵害し、精神的な平穏を脅かす「つきまとい等」に他ならないのです。

本当に相手を思うのであれば、相手の意思を尊重し、健全なコミュニケーションを試みるべきでしょう。一方的な監視は、愛情や心配ではなく、相手を自分の管理下に置きたいという支配欲の表れと見なされても仕方ありません。こうした行為は、時として男女間の金銭トラブルなど、別の問題に発展するケースも見受けられます。

【被害者向け】AirTagを仕掛けられた時の対処法

もし、ご自身の持ち物から不審なAirTagなどが見つかったり、元恋人から行動を監視されていると感じたりした場合は、パニックにならず、以下のステップで冷静に対処してください。

ストーカー被害の証拠を冷静に集めている女性。スマートフォンに保存したメッセージやAirTag、記録をつけたメモ帳を確認している。

STEP1:身の安全を確保し、証拠を保全する

何よりもまず、ご自身の安全を確保することが最優先です。その上で、冷静に証拠を集めましょう。

  • AirTagをすぐに捨てない:発見したAirTagは、それ自体が重要な証拠です。発見した日時、場所、状況をスマートフォンなどで写真や動画に撮影して記録してください。
  • メッセージ等を保存する:相手から届いた、あなたの行動を監視していることをほのめかすようなLINEのメッセージ、メール、SNSのDMなどは、全てスクリーンショットで保存しましょう。着信履歴も同様です。
  • 日記をつける:いつ、どこで、誰と、何をされたのかを時系列で記録しておくと、後で警察や弁護士に説明する際に非常に役立ちます。

これらの客観的な証拠は、あなたの主張を裏付ける重要な資料となります。それは、AIによる性的画像の生成といった新しい形の被害においても同様に重要です。

STEP2:警察に相談する(#9110の活用)

ある程度の証拠が揃ったら、警察に相談しましょう。身に危険が迫っている緊急の場合は迷わず110番ですが、具体的な相談については、警察相談専用電話「#9110」にかけるか、最寄りの警察署の生活安全課を訪ねてください。

警察に相談することで、ストーカー規制法に基づき、加害者に対して「警告」や「禁止命令」といった行政上の措置を講じてもらえる可能性があります。公的な機関が間に入ることで、相手の行為を抑止する効果が期待できます。

STEP3:弁護士に相談し、法的措置を検討する

警察への相談と並行して、あるいはその前に、弁護士へ相談することも極めて有効な手段です。

弁護士に依頼するメリットは多岐にわたります。

  • 直接の接触を断てる:弁護士が代理人として相手方に受任通知を送付することで、「今後の連絡は全て弁護士を通すように」と伝え、あなたへの直接の連絡を止めさせることができます。
  • 多様な法的手段を講じられる:警察の「警告」や「禁止命令」とは別に、裁判所に対して接近禁止の仮処分を申し立てたり、精神的苦痛に対する慰謝料請求(民事訴訟)を行ったりすることが可能です。
  • 相手との完全な関係遮断を目指せる:警察の対応はあくまでストーカー行為を止めさせることが主目的ですが、弁護士であれば、慰謝料請求などを通じて相手に法的な責任を取らせ、今後の接触を一切断つという内容の示談交渉も可能です。

特に、相手との関係を完全に清算し、金銭的な解決も含めて問題を終結させたい場合には、弁護士への相談が不可欠です。それは、独身と偽られて交際したケースなど、他の男女トラブルにおいても同様です。

【加害者向け】ストーカー行為をしてしまった時の対処法

「もしかしたら、自分の行為がストーカーに当たるかもしれない…」と不安に感じている方もいらっしゃるかもしれません。感情に任せて行動をエスカレートさせることは、事態を悪化させるだけです。刑事事件化を避け、問題を解決するために、今すぐ以下の行動を取ってください。

STEP1:直ちに全ての連絡・監視行為をやめる

最も重要で、最初に行うべきことは、相手への一切の連絡(電話、LINE、SNSなど全て)と、AirTagなどによる監視行為を直ちに、完全にやめることです。これ以上行為を続けると「反復性」があると見なされ、より罪の重い「ストーカー行為」として処罰されるリスクが格段に高まります。まずは冷静になり、ご自身の行動がもたらす法的な不利益を認識してください。

STEP2:弁護士に相談し、相手方との交渉を依頼する

一度こじれてしまった関係を、当事者だけで修復するのは極めて困難です。感情的な対立が激化し、さらなるトラブルを招きかねません。速やかに弁護士に相談し、代理人として相手方との交渉を依頼してください。

弁護士が間に入ることで、冷静な話し合いの場を設けることが可能になります。弁護士を通じて、相手の被害感情に配慮した真摯な謝罪を行い、示談交渉を進めることで、刑事事件化を回避できる可能性が生まれます。特に、すでに警察から呼び出しを受けたり、相手方に弁護士がついたりした場合は、個人で対応するのは非常に危険です。専門家を代理人に立てることが、今後の不利益を避けるために重要であり、前科がつく事態を避けるためにも重要な対応と言えます。

法律事務所で依頼者の相談に真摯に耳を傾ける男性弁護士。親身な対応で問題解決に取り組む様子。

まとめ:ストーカー問題は一人で悩まず弁護士へ

この記事では、元恋人のバッグにAirTagを無断で入れる行為が、2025年改正のストーカー規制法によって明確に規制対象となることを解説しました。

重要なポイントを改めて確認しましょう。

  • AirTagなどを用いた無承諾の位置情報取得は「つきまとい等」に該当します。
  • これらの行為を反復すれば「ストーカー行為」という犯罪になります。
  • 「浮気調査」や「心配」といった動機は、法的に正当化することは困難です。
  • 被害に遭った場合は、安全確保、証拠保全の上、速やかに警察や弁護士に相談することが重要です。
  • 加害者の立場になってしまった場合も、直ちに行為をやめ、弁護士に相談することで、事態の悪化を防げる可能性があります。

ストーカー問題は、当事者間の感情的な対立が深く、一人で解決することは極めて困難です。被害者にとっても、加害者にとっても、法的な知識と冷静な交渉力を持つ弁護士という第三者を介することが、双方にとって最善の解決策となるケースがほとんどです。

福岡フォワード法律事務所は、こうした男女間の複雑な問題の解決に力を入れています。もしあなたがストーカー問題で悩んでいるなら、一人で抱え込まず、どうか勇気を出してご相談ください。当事務所は、状況に応じた解決方針を検討し、必要な対応をサポートします。

参照:ストーカー規制法が改正されました!(警察庁)

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