このページの目次
「AIで作った裸の画像」は不倫より心に深い傷を残すかもしれない
「元カレが、私の顔を使って裸の画像をAIで作成し、SNSでばらまいているかもしれない」
「知らない間に、自分のわいせつな画像がネットに出回っている」
もしあなたが今、このような被害に遭った場合、強い不安や怒り、羞恥心を感じることがあります。これは単なる法律の解説ではありません。実際には存在しない性的画像によって人格的利益が侵害される問題について、具体的な対応方法を整理するものです。
私はこれまで、不倫慰謝料をはじめとする数多くの男女トラブルを扱ってきました。しかし、AIによる性的画像の生成、いわゆる「性的ディープフェイク」がもたらす精神的苦痛は、従来のトラブルとは異質な、そして極めて深刻な側面を持っています。
実際に撮影されたリベンジポルノとは違い、AIが生成した画像は「事実無根」です。しかし、その画像を見た第三者は、それを本物だと信じてしまうかもしれません。実際には存在しない画像であることを説明し続けなければならない状況は、被害者に大きな精神的負担を与えます。この記事では、その深い傷を癒し、加害者に正当な責任を追及するための法的手段を、一つひとつ丁寧に解説していきます。
弁護士の見解:問題の本質は「AI」ではなく「人格権の侵害」にある
性的ディープフェイクの問題を考えるとき、私たちはしばしば「AIだから違法なのか?」という問いに直面します。しかし、問題の本質は、新しい技術そのものではなく、その技術が従来から存在する権利侵害をいかに容易にし、深刻化させたかという点にあります。
これまでも、他人の写真を無断で加工し、性的な印象を与える画像を作成・拡散する行為は存在しました。生成AIの登場によって、全く新しい権利侵害の概念が生まれたわけではありません。
しかし、生成AIは決定的な変化をもたらしました。それは、かつては専門的な技術や多大な時間を要した悪質な行為が、今や誰でも、ごく短時間で、容易に実行できるようになったという事実です。
特に深刻なのは、本人が生涯で一度も撮影したことのない性的画像を、AIがいとも簡単に「本人があたかもそのような姿であるかのような画像」として生成できてしまう点です。
これは被害者にとって絶望的な状況を生み出します。「そんな写真は撮ったことがない」「そのような場所には行っていない」とどれだけ叫んでも、インターネット上には、まるで本人の写真であるかのような画像が拡散し続けてしまうのです。
「AIが作った架空の画像なのだから実害はない」という主張は、断じて適切ではありません。第三者がその画像を本人のものだと信じれば、その人の社会的評価や人格的利益は深刻なダメージを受けます。そして一度SNSなどで拡散されてしまえば、その画像をすべて確認し、削除することは容易ではありません。
AIはあくまで道具です。包丁という道具自体に善悪がないのと同じように、AIそのものが違法なのではありません。問われるべきは、その道具を使い、誰の、どの権利を、いかにして侵害したのか、という点に尽きます。
だからこそ、私たち法律実務家は、「AIを使ったから違法か」という二者択一で思考を停止するのではなく、従来から保護されてきた名誉、プライバシー、肖像といった人格的利益に対する侵害が、AIによってどう変質し、どこまで深刻化しているのか、という視点からこの問題と向き合う必要があるのです。

性的ディープフェイクで問える2つの法的責任
AIによる性的画像の被害に遭ったとき、加害者に対して追及できる法的責任は、大きく分けて「民事責任」と「刑事責任」の2つがあります。あなたが何を最も望むのかによって、取るべき対応は変わってきます。まずは全体像を把握しましょう。
民事責任:慰謝料請求と画像の削除
民事責任の追及は、主に「お金」と「画像の削除」を求める手続きです。加害者の行為は、あなたの名誉やプライバシー、肖像権などを侵害する「不法行為」にあたります。これによってあなたが受けた精神的苦痛に対して、慰謝料というかたちで金銭的な賠償を請求することができます。
さらに、金銭的な賠償だけでなく、現在インターネット上で拡散されている画像の削除を求める「差止請求」も可能です。被害の拡大を防ぎ、平穏な生活を取り戻すために、慰謝料請求と画像の削除は、民事手続きにおける2つの重要なゴールとなります。
刑事責任:加害者に科される可能性のある罰則
刑事責任の追及は、加害者を犯罪者として罰することを求める手続きです。性的ディープフェイクの作成・拡散は、以下のような犯罪に該当する可能性があります。
- 名誉毀損罪:公然と事実を摘示し、人の社会的評価を低下させる行為。
- わいせつ物頒布罪:わいせつな画像を不特定多数の人が閲覧できる状態にする行為。
- 児童ポルノ禁止法違反:被害者が18歳未満の場合、児童ポルノの提供や製造にあたる可能性があります。
これらの罪で有罪となれば、加害者には懲役刑や罰金刑が科されます。刑事責任の追及を求める場合は、警察に被害を相談・申告し、事案によっては告訴状の提出も検討します。民事責任の追及とは目的も手続きも異なるため、どちらを優先するのか、あるいは両方を進めるのかを検討することが重要です。

AI性的画像の慰謝料は請求できる?判断のポイント
「本物の写真ではないのだから、慰謝料は請求できないのでは?」
多くの方が抱くこの疑問に対する答えは、「NO」です。たとえAIによって生成された架空の画像であっても、それによってあなたの人格権が侵害されたと認められれば、慰謝料の請求は可能です。
裁判所が慰謝料の額を判断する際には、様々な要素が総合的に考慮されます。具体的には、以下のような点がポイントとなります。
- 画像の拡散範囲と期間:どれだけ多くの人の目に触れ、どのくらいの期間公開されていたか。
- 画像のわいせつ性の程度:画像の内容がどれほど露骨で悪質か。
- 加害行為の悪質性:元交際相手による腹いせなど、動機は卑劣ではないか。
- 被害者が受けた精神的苦痛の大きさ:被害によって仕事や日常生活にどのような支障が出たか。
- 被害者の社会的地位:社会的立場のある人物であれば、損害がより大きいと判断される傾向があります。
慰謝料の算定方法に決まった式はありませんが、これらの要素を丁寧に主張・立証することで、適切な賠償額を求めていくことになります。
この問題は社会的な関心も高く、2026年8月には、法務省が設置した検討会が「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会取りまとめ報告書―生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―」を公表するなど、法的整理に向けた議論も進んでいます。
参照:法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書の公表について」
被害に遭ったらすぐに実行すべき3つのステップ
今、パニック状態で何から手をつけていいか分からないかもしれません。しかし、どうか冷静さを失わないでください。あなたの未来を取り戻すために、今すぐ実行すべきことを3つのステップに分けて具体的に解説します。適切な手順で対応することで、被害回復や責任追及につながる可能性があります。
ステップ1:証拠を確保する(スクリーンショットとURL)
何よりも先に、そして絶対に行わなければならないのが「証拠の確保」です。怒りや羞恥心から「一刻も早く消してほしい」と思うのは当然ですが、その気持ちを少しだけ抑えて、まずは証拠を残してください。これがなければ、後のすべての手続きが困難になります。
具体的には、以下の情報を保存してください。
- スクリーンショット:問題の画像が投稿されている画面全体を撮影します。その際、URL、投稿日時、投稿者のアカウント名(ID)が必ず写るようにしてください。
- URLの保存:投稿ページのURLをコピーして、メモ帳などに貼り付けて保存します。
- 画面録画:可能であれば、一連の投稿やプロフィールページなどを動画で録画しておくと、より強力な証拠となります。
これらの証拠は、後の削除申請や加害者を特定する手続き、そして慰謝料を請求する裁判において、あなたの主張を裏付ける生命線となります。
ステップ2:プラットフォームに削除を申請する
証拠を確保したら、次に画像の削除を目指します。X(旧Twitter)やInstagram、Facebookなどの主要なSNSやプラットフォームには、プライバシー侵害や性的コンテンツに関する規約があり、違反コンテンツを報告するための専用フォームが設けられています。
申請を行う際は、単に「削除してください」と伝えるだけでなく、「本人の同意なく、顔写真を無断で使用してAIによって生成された、事実無根の性的画像である」という点を具体的に、かつ明確に記載することが重要です。
2025年4月に施行された「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」により、一定規模以上のプラットフォーム事業者には、削除申請に対して迅速かつ誠実に対応することが求められるようになりました。諦めずに、まずはプラットフォーム事業者に直接削除を働きかけてみましょう。

ステップ3:発信者情報開示請求で投稿者を特定する
「一体、誰がこんなひどいことを…」
匿名のアカウントによる投稿の場合、投稿者が分からない状況は、被害者の不安をさらに大きくすることがあります。その犯人を突き止めるための法的手続きが「発信者情報開示請求」です。
これは弁護士の専門領域であり、非常に複雑な手続きを伴います。大まかな流れは以下の通りです。
- SNS事業者(例:X社)に対し、投稿に使われたIPアドレスやタイムスタンプなどの開示を求める。
- 開示されたIPアドレスから、犯人が利用したインターネットプロバイダ(例:NTT、ソフトバンクなど)を特定する。
- そのプロバイダに対し、契約者の氏名・住所・電話番号などの開示を求める。
この手続きを経て、初めて投稿者の身元が判明します。しかし、一つだけ注意すべきは「時間との勝負」であるという点です。プロバイダが通信ログを保存している期間は、一般的に3ヶ月から6ヶ月程度とされています。この期間を過ぎてしまうと、犯人を特定する手がかりは永久に失われてしまいます。
もしあなたが加害者に責任を追及したいと少しでも考えているなら、一刻も早く行動を起こす必要があります。より詳しい手順については、ネットの誹謗中傷に関する解説記事もご覧ください。
性的ディープフェイク問題は弁護士にご相談ください
ここまでお読みいただき、被害回復までの道のりが決して平坦ではないことを感じたかもしれません。証拠の確保、プラットフォームとの交渉、そして発信者情報開示請求という複雑な法的手続。これらの対応を精神的負担を抱えたまま一人で進めることは、容易ではありません。
弁護士に依頼する最大のメリットは、これらすべてのプロセスを、あなたの代理人として遂行できることです。法的な手続きを専門家に任せることで、あなたは精神的な負担から解放され、心の平穏を取り戻すことに専念できます。
福岡フォワード法律事務所は、男女トラブルや刑事事件の解決に豊富な実績があります。事務所理念に掲げる「攻めの弁護」の姿勢で、あなたの尊厳を踏みにじった加害者に対し、断固として法的責任を追及します。
一人で悩まないでください。現在の状況に不安を感じている場合でも、事案に応じて取り得る対応を整理できます。まずは法律相談の場で、あなたの状況をお聞かせください。私たちが、あなたが前に進むための一歩を全力でサポートします。
