このページの目次
不貞慰謝料は自己破産で免責される?原則と例外を解説
「不貞行為の慰謝料を請求されたが、とても支払える金額ではない…自己破産すれば支払い義務はなくなるのだろうか?」
「慰謝料を請求している相手が自己破産すると言っている。もう泣き寝入りするしかないのか…」
不貞慰謝料という重い責任と、自己破産という人生の大きな決断。この二つが交錯する時、多くの方が深い不安と混乱に陥ります。法的な結論がどうなるのか、見通しが立たない状況は非常にお辛いことでしょう。
結論から申し上げますと、不貞慰謝料は、自己破産手続きによって支払い義務が免除(免責)される可能性があります。しかし、すべてのケースで免責が認められるわけではなく、例外的に支払い義務が残り続けるケースも存在します。
この記事では、不貞慰謝料と自己破産の問題に直面している方のために、どのような場合に免責され、どのような場合に免責されないのか、その判断の鍵を握る法律の条文や実際の裁判例を基に、弁護士が分かりやすく解説します。
自己破産における「免責」とは?
まず、自己破産と「免責」の基本的な関係についてご説明します。自己破産とは、裁判所に申し立てを行い、所有している財産を清算する代わりに、借金などの支払い義務を原則として免除してもらう手続きです。
裁判所での手続きが無事に終わると、「免責許可決定」が下されます。この決定が確定することにより、税金など一部の例外を除いて、抱えていたほとんどの債務の支払い義務から解放され、経済的な再スタートを切ることが可能になります。不貞慰謝料も金銭的な支払い義務(債務)の一種であるため、この免責の対象となるかが問題となります。自己破産は最終手段ですが、経済的再生を図るための債務整理の一つの方法として法律で認められた制度です。
例外的に支払い義務が残る「非免責債権」
自己破産をすれば全ての支払い義務がなくなるわけではありません。破産法では、政策的な理由などから、免責許可決定が出ても支払い義務が免除されない債権が定められており、これを「非免責債権」と呼びます。
非免責債権の代表的なものには、以下のようなものがあります。
- 税金、社会保険料
- 養育費、婚姻費用
- 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- 故意または重大な過失により加えた人の生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
- 罰金など
不貞慰謝料が自己破産で免責されるかどうかは、主にこの「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」に該当するか否かが争点となります。ただし、債権者名簿への記載漏れなど、別の理由で免責の効力が及ばない可能性(破産法253条1項6号など)もあるため、個別の事情を正確に確認することが重要です。
【条文解説】破産法253条1項2号が免責の鍵を握る
不貞慰謝料が非免責債権となるか否かを判断する上で、最も重要な条文が「破産法253条1項2号」です。まずは条文そのものを見てみましょう。
第二百五十三条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
(中略)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権e-Gov法令検索 平成十六年法律第七十五号 破産法
この条文にある「悪意で加えた不法行為」に不貞行為が該当すると判断されれば、慰謝料は非免責債権となり、自己破産後も支払い義務が残ります。逆に、該当しないと判断されれば、免責の対象となり支払い義務はなくなります。
条文が定める「悪意で加えた不法行為」とは?
ここで非常に重要なのが、「悪意」という言葉の法的な意味です。私たちは日常的に「悪意」を「悪いことだと知っている」「わざと」といった意味で使いますが、破産法における「悪意」は、それよりもさらに限定された、「相手を積極的に害する意思(害意)」を指すと解釈されています。
つまり、単に「不貞行為が相手の配偶者を傷つけるだろう」と認識しているだけでは足りず、「相手の夫婦関係を破綻させてやろう」「精神的に追い詰めてやろう」といった、積極的な加害の意思がなければ、この条文の「悪意」には該当しない、というのが裁判例における一般的な考え方です。

通常の不貞行為は「悪意」に当たらないのが一般的
上記の「悪意(害意)」の解釈に基づくと、ほとんどの不貞行為は、恋愛感情などから発生するものであり、「相手の配偶者を積極的に害する目的」で行われるわけではありません。
もちろん、不貞行為が結果的に相手の配偶者を深く傷つけ、夫婦関係を破綻させることは十分にあり得ます。しかし、それはあくまで「結果」であり、行為の動機として「積極的な害意」があったとまでは言えないケースが大多数です。そのため、裁判例では、悪意(害意)を否定し免責の対象とする判断が多い一方、個別事情次第で非免責と評価され得るため、事案ごとの検討が必要というのが実務上の一般的な見解です。
不貞慰謝料の免責に関する重要裁判例
法律の解釈が実際の裁判でどのように適用されてきたのか、具体的な裁判例を見ることで理解はさらに深まります。ここでは、不貞慰謝料の免責に関するリーディングケース(指針となる判例)をご紹介します。
原則免責とした裁判例(東京地裁平成15年7月31日)
この問題について論じる際に、多くの専門家が引用するのがこの裁判例です。この事案で裁判所は、以下のような判断を示し、不貞慰謝料請求権は免責されると結論付けました。
同判決は、破産法上の「悪意」を単なる加害の認識だけでなく「積極的な害意」と解釈した上で、不貞行為が相手方配偶者を傷つけることを予見していたとしても、それだけでは直ちに積極的な害意があったとは認められない、と判断しました。
要するに、「不貞行為が配偶者を傷つけることは分かっていたはずだ」というだけでは、破産法が定める「積極的な害意」とは言えず、非免責債権には当たらない、という考え方です。この判例は、その後の多くの裁判や実務において、基本的な判断基準として大きな影響を与えています。
「害意」が認定され非免責となる悪質なケースとは
では、逆にどのようなケースであれば「害意」が認定され、慰謝料が非免責債権となる可能性があるのでしょうか。それは、単なる恋愛感情のもつれという範疇を著しく超える、極めて悪質なケースに限られると考えられます。
具体的には、以下のような事情が認められる場合です。
- 夫婦関係を破綻させることを主たる目的として、意図的に不貞行為に及んだ場合
(例:夫婦の一方からそそのかされ、離婚させる目的で不貞の協力者となった) - 配偶者に対する嫌がらせや報復目的で、執拗に不貞行為を繰り返した場合
(例:見せつけるように不貞の事実を告げたり、SNSで挑発したりする) - 不貞行為の態様が著しく反社会的・背徳的である場合
(例:夫婦の自宅で常習的に不貞を繰り返すなど、配偶者の人格を著しく踏みにじる行為)
このように、不貞行為の動機や態様において、配偶者に対する積極的な攻撃性や加害の意思(害意)が客観的な証拠から明らかであると裁判所が判断した場合に限り、例外的に非免責債権となる可能性があります。

【立場別】不貞相手の自己破産にどう対応すべきか
ここまで解説してきた法律知識を踏まえ、あなたが置かれている立場別に、今後どのように対応すべきかを見ていきましょう。
慰謝料を請求された側の対応策
不貞慰謝料の支払いが経済的に困難で、自己破産を検討せざるを得ない状況にある方は、決して一人で抱え込まないでください。自己破産は、人生を再スタートさせるための正当な権利です。
弁護士に依頼することで、裁判所への申し立て手続きをスムーズに進め、免責許可決定を得られる可能性を高めることができます。特に、慰謝料が非免責債権に当たらないことを裁判所に説得的に主張するためには、専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
【解決事例】不貞慰謝料の判決後に自己破産し、免責が認められたケース
ご相談者様は、既婚男性と不貞関係となり、その妻から慰謝料を請求されました。交渉がまとまらず訴訟に発展しましたが、ご相談者様が裁判に対応しなかったため、300万円の支払いを命じる判決が下されてしまいました。
判決後、相手方からの督促を受け、とても支払えないと当事務所にご相談に来られました。私はご相談者様の家計状況を詳細に伺い、支払い継続は不可能であると判断。自己破産手続きを進めることを決意しました。
裁判所への申し立てでは、本件の不貞行為が「夫婦関係を積極的に害する目的」で行われたものではないことを丁寧に主張しました。結果、裁判所は我々の主張を認め、手続きは同時廃止(配当可能な財産がない場合などに、破産手続開始と同時に手続が廃止され、破産管財人による換価・配当手続が行われない手続き)で進み、無事に免責許可決定が下りました。ご相談者様は、慰謝料の支払い義務から解放され、新たな一歩を踏み出すことができました。
また、状況によっては自己破産以外の方法、例えば任意整理によって月々の支払額を減額し、生活を再建できる可能性もあります。高額な不貞慰謝料を請求されてお困りでしたら、まずは専門家にご相談ください。
慰謝料を請求する側の対応策
慰謝料を請求している相手が自己破産を検討している、あるいは既に申し立ててしまった場合、あなたにとっては非常に厳しい状況と言わざるを得ません。原則として、慰謝料は免責されてしまう可能性が高いからです。
しかし、諦めるのはまだ早いかもしれません。もし相手の不貞行為に、先ほど例示したような「積極的な害意」があったと立証できるのであれば、破産手続きの中で「この慰謝料は非免責債権である」と裁判所に意見を述べることができます(免責に関する意見申述)。
ただし、これを認めてもらうハードルは非常に高いのが現実です。感情的な主張だけでは足りず、相手の害意を示す客観的な証拠(メール、LINEのやり取り、音声データなど)が必要不可欠です。弁護士に相談いただければ、お手元の証拠から「害意」の立証が可能か、現実的な回収可能性はどの程度あるのかを冷静に分析し、泣き寝入りせずに済むよう、最善の戦略を共に考えます。
不貞慰謝料と自己破産でお悩みなら福岡フォワード法律事務所へ
不貞慰謝料と自己破産の問題は、男女問題と債務整理という、いずれも高度な専門知識を要する分野が複雑に絡み合っています。法律の知識なくして、ご自身だけで最適な判断を下すことは極めて困難です。
このような困難な状況に置かれたときこそ、私たち弁護士の出番です。福岡フォワード法律事務所は、依頼者の未来を切り拓く「攻めの弁護」で、あなたの再スタートを全力でサポートします。
もしお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
あなたの状況に合わせた最善の解決策を提案します
慰謝料を請求されたのか、それとも請求しているのか。経済状況はどうなっているのか。どのような証拠があるのか。一人ひとり状況は全く異なります。
私たちは、マニュアル通りの対応はいたしません。まずはお話をじっくりと伺い、あなたの状況とご希望を正確に把握した上で、自己破産、任意整理、あるいは相手方との交渉など、考えられるあらゆる選択肢の中から、あなたにとって最善の解決策をオーダーメイドでご提案します。担当弁護士が最初から最後まで直接担当し、密なコミュニケーションを取りながら、あなたの不安に寄り添い続けます。
初回相談は無料|まずはお気軽にご相談ください
「弁護士に相談するのは敷居が高い…」「費用が心配…」そんな不安をお持ちの方もご安心ください。福岡フォワード法律事務所では、債務整理に関するご相談は初回無料です。ご来所での法律相談は原則として30分5,500円(税込)となります。
私たちは「弁護士はサービス業」であると考えています。土日祝日や夜間(21時まで)のご相談、LINEでのご相談にも柔軟に対応しておりますので、まずはお気持ちをお聞かせください。あなたが一歩前に進むための力になります。
